それ以上に怖いのは、感染を本人も仲間内も軽症だと思っていたことだ。なかなか辞任しなかった市長らがいい例だろう。「わたくしごとで申し訳ありません」と謝罪した三原市の天満祥典元市長は6月23日、陽性と分かっていながら「現金の授受はございません」と議会で明言。丸刈りで謝罪した安芸高田市の児玉浩元市長も、当初は頑として否定。河井夫妻が逮捕された後でも公の場で否定できてしまうのだから、よほど軽くみていたのだろう。
結局、市民や後援会の声によって2人とも辞任したものの、初めは陽性疑惑を否定し市長を続投できると踏んでいたのだから、不正菌が重症化すると倫理観や道徳観が損なわれ、完治するのは難しいらしい。いや、とっくに抗体ができていて、感染したのはそれより前ということもありえるかもしれない。
感染拡大の要因には、買収されたとはいえ仲間内という“身内びいき”や、克行容疑者から「安倍さんからです」と首相の名前を出して封筒を渡され、断りきれなかったという“忖度”、自分の意向を押し通し意のままに動かせると考える「社会的勢力感」が絡んでいると思う。力ずくで地元票の取りまとめを依頼するには、この感覚は欠かせなかっただろう。
社会的勢力感は、自らの持つ有形、無形の資源を用いて他人に影響を及ぼすことができたり、望まない介入を遮断できると思う感覚のことでもある。河井夫妻が買収目的でばらまいた金額は約2750万円。金額からも、まさにこの感覚が強かったといえる。
金の出所は、自民党本部から渡された1億5000万円という選挙資金ではないかと言われている。そのうち1億2000万円の原資は税金などで賄われている政党交付金だ。一方、同じ選挙区で公認候補として出馬した溝手顕正元議員には、約1500万円の選挙資金しか渡されていなかった。こうした身内びいき、忖度、社会的勢力感に、自民党内部からも不満が続出している。
そもそも、こうした不正菌はさかのぼればどこで生まれたのだろうか? 誰もここは追及しない。どこまで感染は拡大し、どれくらいの人が抗体を持っているのだろうか。知らないうちに既に全国的に拡大し、気付いた時にはパンデミックで日本の政治はロックダウン、なんてことにならなければいいのだが。