中園さんのドラマから痛快さやリアリティを感じる理由として、もう1つ挙げておきたいのは、割り切りのよさ。基本的に脚本家は、作品を子どものような存在として大切にする傾向がありますが、中園さんは「自分は書くのが遅い」「すべて書こうとしない」などと割り切るケースが何度も見られました。
なかでも象徴的なのは、『ドクターX』への関わり方。同作は2012年秋の第1シリーズから、2013年秋の第2シリーズ、2014年秋の第3シリーズ、2016年秋の第4シリーズ、2017年秋の第5シリーズ、2019年秋の第6シリーズが放送されました。
中園さんは第1シリーズこそ全8話を手がけたものの、2013年秋の第2シリーズは全9話中2話のみ、2014年秋の第3シリーズは全11話中2話のみにセーブ。これは2014年放送の朝ドラ『花子とアン』(NHK)を書くための割り切りでした。
さらに中園さんは2018年の大河ドラマ『西郷どん』(NHK)を書くために、2017年秋の第5シリーズは何と全10話中0話。ちなみに2019年秋の第6シリーズは、全10話中5話と半分まで復帰しました。無理して書いて痛快感やリアリティを下げるのではなく、「今は書けないから」と他人に任せてしまえる割り切りが、『ドクターX』のシリーズ化とクオリティを成立させていたのです。
また、『ドクターX』と『ハケンの品格』はオープニングのナレーションが「盗作か」という噂が流れるほど似ていますが、実際ナレーターは両作とも田口トモロヲさんが担当。内容も放送局も異なる作品であるにも関わらず、それをよしとするのは中園さんの割り切りであり、懐の深さにも見えます。
コロナ禍の今、なぜ中園ミホのドラマが求められているのか? なぜ中園ミホの生み出すキャラクターに引かれるのか? 時代が変わったときほど、思わぬ困難に見舞われたときこそ、「リアルでシビアだけど、痛快で共感できる」エンタメ作の醍醐味を実感できるからではないでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。