独特のオイルの香りを残して、上条さんの高級スポーツカーは去って行った。そのあとは私と残されたメンバーとで上条さんのヤバい噂話に花が咲いたが、彼ほどではないにしろ若い女の子と最近付き合い始めた男性はいた。性に貪欲かつ金に余裕のある男性にとって、コロナはある意味パラダイスなのかもしれない。

 終戦直後、経済的に困窮した旧華族の娘が成金に貰われた歴史があった。コロナ後もそこまでの社会変動ではないにせよ、市場における女の子の価値は大暴落している。男が悪いわけでもなく、女が悪いわけでもない。心とか愛とか、そんなものを必要としない人もいる。売春防止法や刑法にでも抵触しなければ自由恋愛の範疇だ。お育ちのよろしい方々や潔癖なご家庭の方々には理解できない世界で許しがたいだろうが、価値の暴落した女の子を富裕層がはべらせる世界が存在する。絶望的な敗戦後、美しく散るはずだった特攻隊員は闇屋となり、戦死した兵士の妻は新しい恋を求めた。安吾は「人間が変ったのではない。人間は元来そういうものであり、変ったのは世相の上皮だけのことだ」と『堕落論』に著した。そして「生きよ堕ちよ」と混迷の社会に魂の一石を投じた。このコロナ禍、まさに安吾の書いた世界が再現されている。

 私はそんな世界を嫌悪するが、それでも生きる人間を、ある意味たくましいパパ活の女の子たちを嫌悪しない。これからもコロナによって人生を狂わされる人間がいるだろう。それで儲ける連中も、上条さんのように饗宴を楽しむ連中もいる。それを許しがたいと他人に対してひどく道徳的な人間もいれば、それを綺麗事だと揶揄する人間もいる。人間とはどこまでも自分こそが先に立つ生き物であり、それこそがコロナ禍に露呈した人間の本性である。コロナより怖いのは人間 ──大げさなと思うかもしれないが、金で女を買い叩き、買い叩かれる自由恋愛、これもまた、疫禍に苦しむ世界の証左であり、私たち人間の現実である。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で第14回日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年7月『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。12月『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)を上梓。

関連キーワード

関連記事

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン