前出・桑原氏は「来日当初は全く笑顔がなかったが、最近ではよく笑うようになった」と言う。競技の面でも、特にパラ代表のクティアン・マイケル・マチーク・ティン選手(29、100m)の成長は目を見張るものがあるという。生まれつき右手に障害があり、母国では仕事もなかったというマイケル選手はこう話す。

「2~3日食べられない日もあり、走れないこともありました。日本ではポークカレーやレストランで食べたピザがとても美味しかった。食事や練習環境を前橋のみなさんに支えて頂き、とても感謝しています」

 前出・桑原氏によれば、「マイケルは、はじめは頬がこけていて、ご飯もあまり食べなかった。最近では体つきも良くなってきて、記録も伸びている」という。日本の基準からすると、飢餓に近い健康状態だったというのである。また、母国では練習環境も整っていなかった。グエム・アブラハム・マジュック・マテット選手(21、1500m)が振り返る。

「他の選手のシューズを借りて試合に出ていました。母国の陸上トラックは砂利だらけで走りにくい。ここではトラックが整備され、練習に集中できます」

 アブラハム選手は、南スーダン政府主催のスポーツ大会「国民結束の日」に過去2回出場し、優勝経験がある選手。アフリカ全土の競技会でも好成績を収めている。

「家は裕福ではなく、大会に勝てば賞金が出るので、母も私が走るのを許してくれました。私の記録(1500m)は3分43秒ですが、もっと伸ばせるはずです」

母に会えないのは寂しいけれど……

他の選手たちももちろん、南スーダンのトップアスリートだ。桑原氏が言う。

「(パラ代表の)マイケルは、ご飯を食べていなくても一般のレースに出場して好成績を収めていたようです。そもそもポテンシャルは高い」

 3度の食事と日本式の練習環境のなかで6月上旬に行なわれた記録会では、4選手中3人が来日前の自己ベストを更新した。選手たちは口々に「母国に帰りたくない。ここで来年までトレーニングをしたい」と語っていた。

 とはいえ、母国が恋しくないのか。ルシア選手は「母に会えないのは寂しいけれど、日本人の友達もできました。支えてくれる人のために日本で頑張りたいです」と言う。

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