五輪選手が日本語を学ぶ理由について、前出・清水氏はこう説明する。
「買い物にも日本語は必要ですからね。最低限、身の回りのことを自分でできるようにと考えてのことです」
母国では、「3日間食べられないことも」
通訳ボランティアや英語の堪能な職員が細かいやり取りを手助けしているとはいえ、基本的には「プライベートはノータッチ」だという。授業を終えると、市役所地下の食堂で昼食タイム。
清水氏が迷わず「A定食」の食券5人分を購入する。日替わりのA定食は「魚フライ、唐揚げ、冷ややっこ、ごはん」で、B定食は「麻婆豆腐とごはん」。なぜ、B定食ではないのか。
「みんな香辛料の効いた料理が苦手で、B定食の麻婆豆腐は『辛い』と不評なので却下。カレーは好きなのにね……」(清水氏)
食事中は、誰も一言もしゃべらず黙々と食べている。少々、雰囲気が重い気がするが、清水氏いわく「食事中は会話をせずに食べるのが南スーダンの習慣」だそう。アフリカというと、なんとなく“陽気な人々”をイメージするが、国や民族により様々だという。
また、アスリートだからガツガツ食べるのかと思いきや、みな時間をかけて、ゆっくり食べている。
「来日当初は食事を食べ残す選手も多かった」と言うのは、前橋市スポーツ課長の桑原和彦氏だ。
「内戦の影響で南スーダンでは食糧事情が劣悪だったそうです。その影響で胃が小さくなったんでしょうね。消化能力も衰えて、日本の普通の定食も食べ切れなかったんです」
南スーダン国旗は横に三色を配置し、黒は「民族」、緑は「国土」、中央部の赤は「独立の自由のために流した血」に由来する。2011年にスーダンから分離独立した「世界で最も新しい国」だ。しかし、独立後も政情不安が続き、人口の3分の1にあたる約390万人が難民や避難民となるなど、今も内戦の爪痕が残る。選手団が異例ともいえる長期合宿のために来日したのも、そうした事情が背景にある。