ホワイトカラーの低い生産性
そうなると、日本式のオフィスは適しているといいがたい。周囲の電話や話し声でうるさいし、隣から手元を覗かれていると気になって仕事に集中できないものだ。
じっくり考え事をしていると「何をボーッとしているんだ」とか「暇そうだな」と言われ、余分な仕事を押しつけられることもある。逆に忙しそうに電話をかけたり、パソコンのキーをたたいたりしていると頑張っているようにみられる。「悪貨が良貨を駆逐する」というグレシャムの法則をもじっていえば「雑用が創造的な仕事を駆逐する」環境なのである。それでは、いまの時代に仕事の成果はあがらない。
わが国の労働生産性や国際競争力は、奇しくもIT化の進行と反比例するかのように順位を落としてきた。たとえば国民一人あたりのGDP(国内総生産)は1993年にはOECD加盟国のなかで6位だったのが、IT革命後の1998年には17位に低下している。2018年における主要7か国の時間あたり労働生産性をみても、わが国はアメリカ、フランス、ドイツのほぼ3分の2の水準にとどまっている(いずれも日本生産性本部のデータ)。
特にわが国では間接部門、ホワイトカラーの生産性の低さが指摘されている。また、アメリカなどと比較するとイノベーションやブレイクスルーが少なく、それが生産性の足を引っぱっている。
原因の一つがオフィス環境にあることは否定できない。
仕切りがないと、かえってコミュニケーションが減る
もちろん社員どうしのコミュニケーションは大切だし、ワイワイガヤガヤと議論する中からアイデアが生まれるケースも多い。しかし、それを過大評価することを戒めるデータがある。
デスクに仕切りがないとコミュニケーションは良くなりそうに思えるが、アメリカ企業の研究では仕切りがないと電子メールによる連絡が増える一方、意外にも対面的なコミュニケーションが減り、生産性も低下したのである。このデータは拙著『「超」働き方改革─四次元の「分ける」戦略』でも紹介した。
またブレーン・ストーミングのような集団思考は参加者に満足感をもたらすが、実際に生まれるアイデアは個人に劣ることが明らかになっている。しかも難しい課題になるほど間違いが多くなり、仕事の質が低下する(釘原直樹著『人はなぜ集団になると怠けるのか』より)。
やはり創造的な仕事は個人がベースであるし、個人の空間が確保されているほうかむしろ積極的にコミュニケーションをとろうとするようだ。