「入院していた父に四六時中付き添っていたわけではありませんが、臨終には立ち会うことができました。
父の息がだんだん途絶えていくのを実際に傍で見て“人間はこうやって死んでいくんだ”とはっきり確認し、その死を自然に受け入れることができた。だから、父のことで心残りなことはなく、今とくに会って話したいと思うことはありません」
VRで死んだ人に会うこと自体に違和感があると島田氏は言う。
「死者の口寄せをする恐山のイタコさんと違い、いくら精緻になったといっても、VRは人工的なものです。見た目が似ていたとしても、魂が入っているわけではない。NHKの紅白歌合戦で美空ひばりさんのAIが登場した時に賛否両論があったように、CGで“その人”が見えてしまうと、かえってリアリティや思い出が損なわれることがあるのではないでしょうか」
それとは別の理由で「亡くなった父とは会いたくない」と言うのは、自民党元幹事長で衆院議員の石破茂氏だ。
「父親の前で誇るべきことが何ひとつないからです。もし会ったらどれだけ叱られるかわからない。激怒するでしょうなあ。不相応なことをするな、あれだけ言ったではないか、と。『誠実に真面目に生きることだけが大事なのだ。そうすればいつか人は認めてくれる。偉くなろうなどとするな。お前は政治家になるな』これが遺言でしたから」
自治大臣などを務めた父・二朗氏が膵臓がんで息を引き取ったのは、1981年秋のこと。当時、石破氏は24歳の銀行員だった。
鳥取での葬儀の後、東京・青山で二朗氏の畏友・田中角栄氏が葬儀委員長を務めた“田中派葬”が執り行なわれたが、その時に田中氏から言われた「衆議院に出ろ!」の一言で、石破氏の政治家としての道が決まった。