翌2019年の春には、前述の笹倉や伊藤ら、須江監督が秀光中監督時代に指導した有望選手たちの入学が予定されていた。彼らが3年生となる2021年8月の甲子園までに、東北勢で一度もない甲子園制覇を達成する――そう大風呂敷を広げたのだ。
1000日計画を公にした須江監督は、甲子園から仙台に戻ると、今度は打撃練習に偏った練習メニューを2019年のチームに課した。
「バッティング練習が9割、残りの1割はバッティング練習と走塁をコラボレートしたメニューでした。1年半をかけて、走塁と守備、そしてバッティングの基本能力を高めてきて、昨年の夏、ベスト8まで進出することができた。もちろん、チャンスがあれば、優勝したいと思っていましたが、星稜(石川)に負けてしまった。そして、1000日計画の中間期にあたる昨年8月からの1年間は、走塁と守備とバッティングを統合していく作業でした。去年以上に力があった今年のチームがどこまで勝ち進むことができて、どこで跳ね返されるのか、計りたかったんですが……」
今年の結果によって、段階を踏んできた1000日計画をフルモデルチェンジする必要があるのか、マイナーチェンジすればいいだけなのか、須江監督は検証しようとしていた。春夏甲子園の中止によって「1000日計画」のスケジュールに狂いは生じたものの、東北大会や交流試合をその代替大会と位置づけている。
「ド補欠」から監督へ
仙台育英には140キロを越える投手が10人以上いて、他の学校がうらやむ巨大戦力だ。試合では須江監督が投手の球数を把握しながら、肩やヒジの状態や身体の疲労度を見定め、投手を惜しみなく投入していく。周到な継投策こそ猛暑の過密日程で開催される地方大会や甲子園を勝ち上がるための最善策だというのが須江監督の信念だ。
情報科の教諭である須江監督は、練習試合や紅白戦における個人データを細かく集め、一括管理し、メンバー選考の根拠として選手たちに提示している。
「誰より私自身がアナライズ(分析)が好きなんですね(笑)。そうしたデータに頼るのは、自分のコンプレックスが理由だと思います」