「本来の夏というのは、選手にはメンバーに選ばれるか選ばれないかという葛藤があり、その中で選ばれた人間は責任やプレッシャーを感じながら戦う。選ばれなかった人間は、悔しさや歯がゆさを感じながら次のステップに踏み出していく。東北大会は日本一厳しいと自負するメンバー争いを勝ち抜いたベストの選手で臨みます」
仙台育英には2年生には笹倉世凪(せな)、伊藤樹という、中学時代から注目された球児で、昨夏の甲子園も経験した両投手がいる。全国的にはまだまだ無名だが、豪腕に加えて、打力も期待される吉野蓮という隠し球もいる。さらには1年生にも即戦力となる打者がいる。
「この1年の集大成の場であり、チームとしての発表会が東北大会になる。この大会を勝ちきらなければ、甲子園制覇なんて夢のまた夢です」
2021年夏の優勝へ
系列の秀光中を指揮し、日本一も経験していた須江監督は、2018年1月に仙台育英の監督となった。就任からその年の夏大会まで、バッティング練習をほとんど行わず、走塁と守備に練習の9割をさいた。
「野球の本質は、まず走塁と守備を整えること。得点の効率を高める走塁練習と、守備は表裏の関係で、走塁のシステムを理解できれば、自ずと守備の理解力も高まっていくんです」
同年夏の宮城大会を制すると、甲子園では浦和学院と対戦。だが、渡辺勇太朗(現・埼玉西武)が先発した浦和学院に0対9と良い所なく初戦敗退した。
敗軍の将が立つお立ち台で、須江監督は壮大な計画をこの時初めて口にした。
「あの年の浦和学院は全国でも上位3校に入るような強豪でした。案の定惨敗したわけですが、スタンダード以上の野球を体感し、その差を痛感した。気がつけばあのお立ち台で、『1000日以内に優勝するような計画を立てて明日から練習したいと思います』と口にしていました。目標には期限設定が必要だというのが私の考え。それが1000日でした」