「僕は見た目のインパクトがありませんからね。
悪役なのか、善役なのか、三枚目なのか、なんともいえない。全てがミックスされています。そういう何か読めない感じといいますか、厭らしさといいますか──があるので、そういう役に合っていたんでしょう。見た目では良い人なのか、悪い人なのかが分からない。
もちろん『二時間ドラマだからこうやればいい』という定番のやり方もあるんでしょうけれど。でも、僕としてはそういうのはやりたくなくて。虚構の、嘘の世界なんですが、それでも、その場に生きている人──それを見せなきゃいけない。
いや、見せるという前に、そこに生きていなきゃいけない。その役として、そこで生きる。それが今の僕がテーマにしていることです。
たとえ一言の出番でも、ワンシーンの出番でも、人物像をちゃんと考える。その人間の多面性と、生き様を面白がることができれば、セリフ以外の何かが出てくる。若い頃は目立つ方に行きたかったですが、ようやくそういうことが信じられるようになってきましたね」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2020年8月28日号