「歌舞伎というと、派手なメイク(隈取=くまどり)や大げさなポーズ(見得=みえ)などを思い浮かべる方が多いでしょうが、実は昔から『一声二顔三姿(いち・こえ、に・かお、さん・すがた)』といって、役者はまず声が一番大事とされています。大きな劇場で4階の一番奥のお客様にもマイクなしで大きな声を届けないといけないわけですから、オペラ歌手と同じです。
一見大仰に見える“顔芸”だって、舞台から遠い座席のお客様にも登場人物の心情を届けるための技術。こうした演技がテレビでアップになると『リアリティがない』『あざとい』と敬遠された時代も過去にはありましたが、マンガやアニメのデフォルメされた表現になじんだ今は、逆に共感しやすいものなのかもしれません」
『半沢直樹』から歌舞伎に興味を持った人々に向けて、仲野氏がお勧めする演目は?
「8月26日まで、東京の歌舞伎座では愛之助さんが『連獅子』、猿之助さんが『義経千本桜〜吉野山』という演目に出演しています。どちらも舞踊劇ということで、『半沢直樹』とは全く異なる、歌舞伎俳優の“ダンサー”、“アスリート”としての側面にびっくりしますよ!
また、8月21日からのシネマ歌舞伎『連獅子/らくだ』(中村勘三郎一門出演、27日まで)もお勧めです。“シネマ歌舞伎”は、全国の映画館で上映されるプログラムなので、歌舞伎座など舞台の敷居が高く感じられる人でも、気軽に楽しむことができます」
8月1日から約5か月ぶりに営業を再開させた歌舞伎座。新型コロナウイルス感染拡大の影響で演劇界全体が厳しい状況に置かれる中、世間と“歌舞伎”をつなぎファンを増やす効果も期待される『半沢直樹』の果たす役割は大きいのかもしれない。
●取材・文/原田イチボ(HEW)