「無給医の多くは大学院生です。戦力になる上、学生であることを理由に十分な給料を払わずに済む。病院経営には都合がいい存在です。院生の間の数年間ただ働きさせて、終わればクビにするケースもある」(上医師)

 コロナ禍の現在、無給医を取り巻く現状は厳しさを増している。大学院生として都内の大学病院に在籍中のある30代医師が語る。

「コロナ診療のローテーションに組み込まれ、毎日診療に従事していますが、時給は1000円程度。文科省通達後も雇用契約はうやむやにされたままで、危険手当もなく労災にも入れない。常に不安や強いストレスを抱えながら診療しており、仕事に身が入らないと感じることがあります」

 この医師は他の病院やクリニックのアルバイトで生計を立てていたが、「コロナ後は患者減による経営悪化などで、病院側がアルバイト医師を雇わなくなりました。私も収入の柱を失ってしまった」と途方に暮れる。前出・上医師が言う。

「大学病院で働く院生は、今も昔も“アルバイトで稼ぐ”が基本ですが、問題は大きい。非常勤で忙しく働き、大学病院ではただ働きとなると不満やストレスが募る。報酬も満足にもらえず体に鞭打って医療に従事すれば、事故のリスクは高まる」

 日本医療安全調査機構の調査(2018年)によると、「病院内の調査が必要な患者の予期せぬ死亡」は1日1件程度の頻度で報告され、外科医対象の別のアンケート調査では、8割の医師が「医療事故・インシデント(ヒヤリ・ハット)の原因は過労・多忙」と回答している。

 こうした状況でも、無給医をはじめとする現場医師の過酷な労働環境の抜本的な改善策は示されていない。病院経営サイドの意識、医療構造の改革なくして問題は解決しない。

※週刊ポスト2020年9月4日号

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