「菅氏は感染拡大下でGo Toトラベルキャンペーンを推進してきた。暖房と冷房をいっぺんにかけるような政策は、『医療崩壊しない限り、社会経済活動は止めない』という方針だからです。新規感染者数が過去最高を更新しても、政府は緊急事態宣言を発令しない。それも総理ではなく菅氏が判断していた」(伊藤氏)
政権の権力構造はコロナ禍で大きく変わっていたというのだ。二階派幹部がシナリオをこう語る。
「安倍総理が退陣すれば総裁選になる。ワンポイントリリーフで首相再登板を目指す麻生太郎副総理が麻生派、岸田派、そして安倍総理の出身派閥の細田派と組めば、菅─二階連合では数で勝てない。それなら、安倍総理をできるだけ延命させて、官邸は菅さん、党は二階さんが権力を掌握し、ポスト安倍に備えて麻生さんの力を削いだ方がいい」
レガシーが何もない
そうした2人の計略は安倍氏の辞任で大きく狂った。安倍氏から政権禅譲してもらうつもりだった麻生氏や岸田文雄政調会長らの反発を招き、自民党内抗争が激化するのは間違いない。この計略は一旦変更されることとなるが、自民党内での動きは激しくなっている。
すでに麻生氏は「安倍さんから後事を託された」(側近)と動き出し、憲法改正に慎重だった岸田氏は講演(8月25日)で「もし私が政権を担うことになったとしても、憲法改正にしっかり取り組む」と態度をコロリと変えてなりふり構わぬ安倍支持層の取り込みに乗り出した。ポスト安倍に野心を抱く河野太郎防衛相、石破茂元幹事長らも黙ってはいないだろう。