国際情報

「安倍首相頑張りましたね」中国庶民が“電撃辞任”労うワケ

記者会見で辞意を表明する安倍首相(写真/時事通信フォト)

 日本だけでなく、海外メディアもトップニュースとして大々的に報じた安倍晋三首相の電撃辞任。折に触れて日本との対立や関係悪化が取り沙汰されてきた中国でも同様で、中国の検索サイトやSNSではトレンド1位となるなど衝撃が広がった。だが、中国国民の反応は予想とは大きく異なるようだ。中国の経済、社会に詳しいジャーナリストの高口康太さんが解説する。

 * * *
「安倍首相も頑張りましたねぇ。ゆっくりお休みください」
「早期の回復をお祈りします」
「中国の伝統治療を受けたら回復するのでは」

 これは8月29日、安倍首相が突如辞任を表明した後、中国のSNSに書き込まれたメッセージ。予想外にも労いの言葉が多くを占めた。もちろん「因果応報だ」などと毒づく書き込みもあったが、全体から見ると少数派だろう。

 振り返れば2013年、政権発足から初めて安倍首相が靖国神社を参拝した時、中国では大きな反発を呼んだ。中国では、靖国に参拝した日本の首相とは右翼であり、日本帝国主義であり、「中国の敵」という位置付けであるからだ。本来は好かれるはずがない。また、7年8か月にわたる第2次安倍政権を通じて、日中関係はぎくしゃくした状態が続いていた。

 しかも、安倍首相が推進した「価値観外交」、すなわち自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済といった普遍的価値を共有できる国での連携を進めようとする戦略は、つまるところ「中国外し」の戦略だ。あからさまな「中国包囲網」を築こうとしているとの警戒感もあった。

 さらに安倍首相は、歴代日本政権が冷淡な対応を取ってきた人権問題でも、中国にお小言を言ってきたことでも知られる。一例をあげると、中国が香港の統制を強める「香港国家安全維持法」導入に対して、遺憾の意を表明したことがあげられる。遺憾の意を表明したところでどれほどの実効性があるかは分からないが、この日本政府の姿勢に香港の民主化活動家として知られる周庭(アグネス・チョウ)氏も、「あの日本が!」と驚いていたぐらいだから、香港の人々を勇気づける役割は果たしたかもしれない。

 これらを考えると、中国にとって安倍首相は面倒臭い相手だったことは間違いない。にもかかわらず、なぜ安倍首相は、これほど中国の庶民受けが良いのだろうか。

 恐らくその答えは、「中国人のストロングマン好き」が主に影響していそうだ。「悪い奴」は単に憎たらしいだけだが、「悪くて強い奴」は逆に人気が出てしまうのである。過去を振り返って見ても、小泉純一郎元首相が靖国を参拝したことで中国とバチバチの対立関係になったが、庶民受けは悪くなかった。まさに今、中国と激しくぶつかっているトランプ米大統領もそうだ。困ったことをしている奴でも、強い奴にはついつい惹かれてしまうのが中国の庶民の心理なのだろう。

 安倍首相の前の首相が誰だったのか、日本人ですら記憶がおぼろげな人が多いなか、中国人なら尚更だ。覚える前に1年で首がすげ変わった野田佳彦前首相、菅直人元首相などには何の感情も沸かない。だが中国の庶民は、7年8か月を“共に過ごした”安倍首相については、いろいろあっても、何かしらの思いが生まれてくるというわけだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

衝撃を与えた日本テレビ系列局元幹部の寄付金着服(時事通信フォト)
《24時間テレビ寄付金着服男の公判》「小遣いは月に6〜10万円」夫を庇った“妻の言い分”「発覚後、夫は一睡もできないパニックに…」
NEWSポストセブン
解散を発表したTOKIO
《国民に愛された『TOKIO』解散》現場騒然の「山口達也ブチギレ事件」、長瀬智也「ヤラセだらけの世界」意味深投稿が示唆する“メンバーの本当の関係”
NEWSポストセブン
漫画家の小林よしのり氏
小林よしのり氏、皇位継承問題に提言「皇室存続のためにはただちに皇室典範を改正し、愛子皇太子殿下の誕生を実現しなければならない」
週刊ポスト
教員ら10名ほどが集まって結成された”盗撮愛好家グループ”とは──(写真左:時事通信フォト)
〈機会があってうらやましいです〉教師約10人参加の“児童盗撮愛好家グループ”の“鬼畜なやりとり”、教育委員会は「(容疑者は)普通の先生」「こういった類いの不祥事は事前に認知が難しい」
NEWSポストセブン
警視庁を出る鈴木善貴容疑者=23日午前9時54分(右・Instagramより)
「はいオワター まじオワター」「給料全滅」 フジテレビ鈴木容疑者オンカジ賭博で逮捕、SNSで1000万円超の“借金地獄”を吐露《阿鼻叫喚の“裏アカ”投稿内容》
NEWSポストセブン
解散を発表したTOKIO(HPより)
「TOKIOを舐めるんじゃない!」電撃解散きっかけの国分太一が「どうしても許せなかった」プロとしての“プライド” ミスしたスタッフにもフォロー
NEWSポストセブン
大手芸能事務所の「研音」に移籍した宮野真守
《異例の”VIP待遇”》「マネージャー3名体制」「専用の送迎車」期待を背負い好スタート、新天地の宮野真守は“イケボ売り”から“ビジュアル推し”にシフトか
NEWSポストセブン
「最近、嬉しかったのが女性のファンの方が増えたことです」
渡邊渚さんが明かす初写真集『水平線』海外ロケの舞台裏「タイトルはこれからの未来への希望を込めてつけました」
NEWSポストセブン
4月12日の夜・広島県府中町の水分峡森林公園で殺害された里見誠さん(Xより)
《未成年強盗殺人》殺害された “ポルシェ愛好家の52歳エリート証券マン”と“出頭した18歳女”の接点とは「(事件)当日まで都内にいた」「“重要な約束”があったとしか思えない」
NEWSポストセブン
「父としての自覚」が芽生え始めた小室さん
「よろしかったらお名刺を…!」“1億円新居”ローン返済中の小室圭さん、晩餐会で精力的に振る舞った理由【眞子さんに見せるパパの背中】
NEWSポストセブン
多忙なスケジュールのブラジル公式訪問を終えられた佳子さま(時事通信フォト)
《体育会系の佳子さま》体調優れず予定取り止めも…ブラジル過酷日程を完遂した体力づくり「小中高とフィギュアスケート」「赤坂御用地でジョギング」
NEWSポストセブン
広島県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年6月、広島県。撮影/JMPA)
皇后雅子さま、広島ご訪問で見せたグレーのセットアップ 31年前の装いと共通する「祈りの品格」 
NEWSポストセブン