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90年目の満洲事変 勃発前に陸軍大将の「非戦」講演があった

満州事変(柳条湖事件)の現場、中国遼寧省・瀋陽市で昨年行われた式典の様子(Avalon/時事通信フォト)

 屈辱の九・一八——。中国では、9月18日は“国恥記念日”の一つとされている。それは、かつてこの日に「満洲事変(柳条湖事件)」が起きたことに因んでいる。

 昭和6(1931)年9月18日夜、遼寧省の奉天(現在の瀋陽)郊外で、南満洲鉄道(満鉄)の線路が爆破された。当初、中国兵による不法な襲撃とされた事件は、日本軍の自作自演によるものだった。これが、のちの満洲国の建国や日中戦争へとつながっていく。

 そのちょうど1週間前にあたる同年9月11日、東京・神宮外苑の日本青年館において、一人の軍人による講演会が開かれていた。演者は陸軍航空本部長の渡辺錠太郎大将。「現今の情勢に処する吾人(われわれ)の覚悟と準備」と題された講演だった。

 渡辺は、この4年後の昭和10(1935)年に、陸軍大臣や参謀総長と並ぶ「陸軍三長官」の一角である教育総監にまで昇り詰めることになる幹部将校の一人だった。しかし、さらにその翌年に起きた日本最大の軍事クーデター未遂「二・二六事件」で、陸軍の現役軍人としてただ一人“部下”の青年将校らに暗殺されてしまった悲運の陸軍大将としても知られる。

 満洲事変の勃発前夜ともいうべきこの時期に、渡辺大将はいったいどんな「覚悟と準備」を語っていたのか——。戦後75年を迎えた今、この渡辺の「非戦(避戦)思想」が注目されている。きっかけとなったのは、今年2月に初の本格評伝『渡辺錠太郎伝』(岩井秀一郎著/小学館)が刊行されたことだ。たとえば同書では、渡辺のこんな発言が紹介されている。

「どこの国でも軍事力が大きくなると、戦争がやりたくなる。だが、どんな事があっても、戦争ばかりはやっちゃあイケナイ」「日本も世界の列強にならねばならぬが、しかし、どうでも戦争だけはしない覚悟が必要である」

 前述した昭和6年の講演は、そんな渡辺の非戦思想や戦争に対する考え方を平易な言葉で理解できる格好のテキストとなっている。前出の『渡辺錠太郎伝』の解説もまじえながら、以下、読み解いていく(*注)。

【*注/渡辺の講演については、読みやすさを考慮して、旧漢字・旧かな遣いは現行のものに、また一部の漢字をひらがなに改めました。行換えのほか、句読点についても一部加除したりしています。[   ]は引用者注。出典は「渡邊大将講演(現今の情勢に処する吾人の覚悟と準備)」麻布連隊区将校団(防衛省防衛研究所所蔵史料)】

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