著者のメアリー・トランプ氏。1965年生まれ。ドナルドの兄フレデリック(フレディ)・クライスト・トランプ・ジュニアの娘。ダーナー高等心理学研究所で博士号を取得。大学院で精神病理学等の講義を担当している(写真/(C)Avary L. Trump)
著者に言わせれば、ドナルド・トランプという人物は祖父フレッドの「作品」なのだ。
同書では、そんなドナルドの過去の行状がいくつも暴かれている。「替え玉受験」もその1つだ。3年次にフォーダム大学からペンシルバニア大学へ編入を望んだドナルドは入試に合格できないのではないかと心配し、「頭がよくていい点を取ることで有名だったジョー・シャピロに協力を求め、自分の代わりにSAT(大学進学適性試験)を受けてもらうことにした」「いつも大金を持っていたドナルドは、シャピロに十分な報酬を支払った」という。
日常的な場面でドナルドがつく些細な嘘にも、底知れない不気味さがある。メアリーを現夫人のメラニアに初めて会わせたとき、大学を中退した姪のことを、ドナルドはこう紹介した。
「しばらくどん底の生活が続いていたらしい。それでこいつ、ドラッグに手を出したんだ」
もちろんそれは全くのデタラメなのだが、当時、ドナルドは自分の本を書かせるライターとしてメアリーを雇っていた(後日その話はご破算になった)。そのため“自分は姪の救世主だ”という話を「巧みにつくりあげた」のである。
トランプタワー建設時のエピソードも印象深い。ドナルドは、その土地にあった老舗デパートを取り壊す際、建物正面を飾っていたアール・デコ様式の美しい石灰岩のレリーフを破壊した。「歴史的に貴重なこれらの工芸品をメトロポリタン美術館に寄贈すると約束していたにもかかわらず、レリーフをきれいに取りはずすのに費用がかかり、建設も遅れるとわかったとたん、壊すよう命じた」のだ。
しかも批判に対しては「肩をすくめて一笑に付し、専門家の査定より自分のほうがよくわかっていると言わんばかりに、『あんな彫刻に芸術的価値はない』と言い張った」という。