メアリー氏は、兄フリッツの息子で病弱だったウィリアムのため、医療保険を元に戻すよう別の訴訟を起こさざるを得なかったという。しかし、そのことが一族の間にさらに大きな亀裂をもたらし、もう一人の叔母エリザベス(トランプ氏の次姉)からは「あの子たち、お金が欲しいだけなのよ」と陰口を叩かれたほどだった。
それから約2年が過ぎ、ウィリアムを抱えての訴訟継続が困難であると判断したメアリー氏らは、叔父らとの和解を決心。だが〈マリアン、ドナルド、ロバートは、私たちが父から相続した財産の取り分、つまり「ミニ帝国」(*注)の20パーセントと「プライスレス」な賃貸権をあきらめることに同意するまで和解しないと言ってきた〉(同前)という。
【*注:「ミニ帝国」/メアリー氏の祖父でトランプ氏の父であるフレッドが設立した不動産管理会社ミッドランド・アソシエイツ社が所有する〈サニーサイド・タワーズ〉や〈ハイランダー〉など8つの建物を指す】
“骨肉の争い”の延長戦
メアリー氏が今年9月に起こした訴訟は、かつて和解により解決した、祖父の遺産の取り分をめぐる“骨肉の争い”の延長戦といえる。直接のきっかけは、メアリー氏が資料を提供し、ニューヨーク・タイムズ紙が2018年10月に記事化した調査報道だ。同紙により、メアリー氏は一族の財政事情について以下のことを知ることになった。
〈フレッド(メアリー氏の祖父。トランプ氏の父)はその生涯を通じて、妻と二人で子どもたちに何億ドルも渡していたという。祖父が生きていたあいだ、ドナルドだけでも4億1300万ドル相当を、しかもその多くを疑問の余地のある手段で受け取っていた。一度も返済したことのない融資、満期を迎えたことのない不動産投資事業。つまり実質的に、一度も課税されたことのない贈与だ。そこにはドナルドが祖父の帝国を売却したことで手にした1億7000万ドルは含まれていない〉(同前)
実はメアリー氏がかつて和解した当時、祖父の遺産は「3000万ドルしかない」とされていた。しかし実際は、すでに故人だったメアリー氏の父を除くトランプ氏らのきょうだい4人が、さらに巨額な遺産を、相続税や贈与税を払うことなく山分けしていた、というのだ。
メアリー氏は今回の訴状で、トランプ氏とマリアン氏、ロバート氏らが共謀し、祖父フレッドの遺産相続をめぐって、当時未成年だったメアリー氏に不利な契約を結ばせたと主張していると報じられている。「詐欺行為は、一族の稼業だったのみならず、生き方そのものだった」などと厳しく批判しているという。
大統領選を間近に控えた今、トランプ大統領は姪の提訴にどう応じるのだろうか。支持率の行方とともに、目が離せない。
●取材協力/高濱賛(在米ジャーナリスト)