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高橋尚子 シドニー五輪本番は「本当に楽!」と思って走った

「負ける気がしなかった」と話すシドニー五輪では、表彰台の一番高いところで、トレードマークの”Qちゃんスマイル”を見せた(写真/共同通信社)

 2000年のシドニー五輪女子マラソンで、金メダルを獲得した高橋尚子(48才)。レース後のインタビューで「すごく楽しい42kmでした」と語った姿が印象的だったが、その笑顔の陰で、どんな日々を過ごしてきたのか。

 中学で陸上部に入部し中距離の選手となった高橋。中学2年生のときに岐阜県大会で優勝した彼女は、スポーツ強豪校である県立岐阜商業高校に推薦で入学。陸上部の監督だった中澤正仁さんと出会う。

 中澤監督に育まれたのち、大阪学院大学では中距離の選手として活動。卒業後は陸上をやめ、教師になるつもりだった。しかし、バルセロナ五輪マラソン銀メダリストの有森裕子や世界陸上マラソン金メダリストの鈴木博美など育てた名将・小出義雄監督(享年80)と出会うこととなる。

 高橋が、当時を振り返る──。

 * * *
 私が世界一になれたのは、有森さんや鈴木さんのように、世界で戦う人たちと一緒に練習ができた環境も大きいと思います。

 1995年にリクルートに入社したときは合宿所生活で、私の部屋の隣が有森さんのお部屋だったんです。だから、「あの有森裕子さんが隣にいる!」というのが、私の自慢で(笑い)。当時はオリンピックの“オ”の字も考えたことがありませんでした。

 ただ、1997年に小出監督とともに積水化学に移籍した年、世界陸上で鈴木さんがマラソンで優勝しました。私は5000mに参加して13位だったのですが、当時、私はトラックの練習ではなく、鈴木さんの練習パートナーをしていたので、鈴木さんが金メダルを獲ったことが心底うれしくて。それと同時に、「鈴木さんが優勝したということは、一緒に練習していた私も走っていたら、4~5番手になれたかもしれない」と思って。そこからマラソンを本格的にやりたいと思うようになりました。

〈オリンピック直前は、アメリカのコロラドで高地トレーニングを行い、平日は高地でおよそ40km、土曜は80km近く走る〉

 オリンピックの1週間前は調整のため、練習量がぐっと落ちるのですが、それまでの練習があまりにもつらかったので、もう楽しくて! オリンピック本番も、42.195kmでいいなんて、本当に楽!と思っていました。

 それに、小出監督はオリンピック会場に行くときも、近くの公園に行くみたいな感じで、現地ではいつも以上にだらけていて(笑い)。いま考えると、私を緊張させないようにしてくれていたんだと思います。

 そのおかげで、私はまったく緊張せず、「ようやくこの舞台に来た!」と、ワクワクしていました。負ける気もほぼなく勝つ気満々でした。試合前日も、私はオリンピックなのに、「明日の表彰式は、どのジャージーを着ていけばいいんでしたっけ?」って監督に尋ねて、「おいおい。お前、まだレースが始まってないのに、表彰台に上がる気満々だなあ」と監督に言われて、ハッとわれに返ったり(笑い)。そのくらい、リラックスしていました。

〈そうして臨んだ初オリンピックで、見事に陸上日本女子初の金メダルを獲得。レース後のインタビューで語った『すごく楽しい42kmでした』という言葉は、語り継がれる名言となる。シドニー五輪後も数々のレースで優勝を果たすが、2003年、東京国際女子マラソンで敗れ、2004年アテネオリンピックの代表選考から外れてしまう〉

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