ただし、気づかなかったデータを提示されると、「当日の状況次第では」と一考するテも。「左回り巧者」「渋った馬場得意」「外枠好み」などのファクトがあり、2つ以上当てはまればパドックと返し馬で確認する。そしてワイド6点買いの1ワクに入れるかどうか決める。
先のGIがそうだった。手にした予想紙、単勝10番人気の馬番【16】に◎。論拠はそれなりだ。中山の1200メートル。先行勢に人気どころが多く、ペースは速くなる。大外枠を利して追走はスムーズ、強烈な末脚が身上の当該馬にとってはチャンス。休み明け3戦目で中間は大幅な良化ぶり。パドックは文句なし。返し馬もいい。
馬券構想は先行勢の一角を軸にワイド6点。【16】は含まず。決然と見送った。
果たして、【16】がものすごい豪脚で3着入線。1番人気、3番人気、10番人気の決着。ワイドは1点的中したものの低配当だった。
自分の狭量さを思い知ることにもなった。切った馬が気になり、「来るな!」と叫んでしまった。こんなメンタルじゃダメだ。
【プロフィール】
須藤靖貴(すどう・やすたか)1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2020年11月6・13日号