そう語る渋井さんのように、個人レベルで相談を受けつける人も増えている。その多くは善意に基づくものだが、弱みにつけ込む犯罪の温床になる可能性もある。
2017年に発覚した座間9遺体事件の白石隆浩被告はツイッター上に「死にたい」と書き込んだ若者を「一緒に死のう」「力になりたい」と誘い出し、次々に手をかけた。
いのちの現場を知る多くの人や専門家が口を揃えるのは、世の中には急を要する「聞いてもらいたい声」があり、その声を聞き逃すと取り返しがつかなくなるということだ。
精神科医の樺沢紫苑さんが指摘する。
「日本人は『悩みごとは解決しないと意味がない』『どうせ他人に相談しても解決できない』と考えて相談を避けがちですが、実は完全に解決をする必要などなく、ただ誰かが話を聞いてくれるだけで自死を防げる可能性が高い。だからこそ、いのちの電話には大きな意味がある。悩みを打ち明けられる場があることこそが、何より重要なのです」
絶望を訴える電話が鳴る限り、受話器を取り続け、それを受け止める人がいる──いのちの灯を消さないために、今日も6000人が誰かの話に耳を傾けている。そのことを、私たち一人ひとりが、正面から考える時期に来ているのではないか。
【相談窓口】
「日本いのちの電話」
ナビダイヤル0570-783-556(午前10時~午後10時)
フリーダイヤル0120-783-556(毎日午後4時~午後9時、毎月10日午前8時~翌日午前8時)
※女性セブン2020年12月3日