「目や耳などの感覚器が刺激を受けてから脳内で処理し、指先に反映されるまでの過程は大きく『【1】情報の処理』『【2】(処理した情報をもとにした)行動の決定』『【3】行動の実行』の3つに分けられ、反応速度のうち3分の2以上が【2】の『行動の決定』のために費やされることが分かっています。
20代の反応速度は0.15~0.22秒と各年代で最短という結果があります。前述した3つの要素のうち、『【1】情報の処理』と『【3】行動の実行』は若い世代ほど速いと言われています。例えば目は老眼やそれを支える筋肉の衰えによって低下しますし、指先などを速く動かすのも若い方が有利であるためです」
しかし、それだけでは“若い人ほど有利”とは言い切れないのだという。
「『【2】行動の決定』を司る、脳の前頭前野という部位の機能は年齢によって衰えないのではないかという説が提唱されています。また、経験が豊かであればあるほど鍛錬・学習効果によって前頭前野の機能は発達することが分かっており、経験を重ねた熟練者は発達した前頭前野により過程【2】の処理速度を高めることで、過程【1】と【3】の衰えをカバーしていると考えられます」
格闘ゲームの大会ではしばしば30代のプロゲーマーが優勝することがあるが、これは経験で年齢の衰えを補っていることが背景にありそうだ。
一方、反応速度に実力が左右されない競技の代表例として将棋が挙げられる。現在、18歳の若き棋士、藤井聡太二冠が大躍進を遂げているほか、羽生善治九段や加藤一二三九段といった棋界を代表する棋士たちの多くが10代の頃から大成している。彼ら名棋士と若くして活躍するプロゲーマーたちに存在する共通点とは何だろうか。眞鍋教授が語る。
「これは生来の能力で、いわゆる『天賦の才能』と呼ばれるものだと思います。わかりやすい例を挙げると、弁護士の中には六法全書に書かれた膨大な文章を絵として記憶できる人がいたりします。藤井さんや羽生さんは現在の盤面から先の展開をイメージする高い能力が先天的に備わっており、それに加えて経験に基づいた後天的な能力も持っているからあれだけ強いのだと思います。これは過程【2】の処理速度にも大きく影響しており、若くして強いゲーマーたちはある種の才能を持ち合わせているのだと考えられます」
ゲームの上手さには先天的能力、いわゆる才能が関与している部分があるのだという。では、努力によって才能を補うことはできるのだろうか。
「先天的能力と後天的能力は一部重なっているイメージで、ある程度は努力によるカバーが可能ですが、努力で六法全書を絵として暗記することはできません。どうしても才能でしか得られない能力は存在します」
しかし、たとえこうした天賦の才能を持ち合わせていたとしても、年齢とともに衰える部分があるのは間違いない。鍛錬でその衰えを補っていくことで、長く現役で戦い続けることができるのだろう。
また、この「天賦の才能」は多かれ少なかれ、あらゆる人間に備わっていると眞鍋教授は解説する。