こう話すのは、大手芸能事務所の現役幹部(50代)。この幹部もコロナ禍で本業、そしてこっそりできたバイトも無くなってしまい、グレービジネスに手を染めるアイドルやタレントの卵が後を絶たないと話す。
「そもそもアイドルやタレントになる器量がないのに、登録料やレッスン料が欲しいだけの事務所に騙され、金づるとして利用されているだけの人たちがゴマンといるんです。でも、現実に気が付かないふりをして、自称アイドルや自称タレントを続けている。夢に破れていないと自分を騙す現実逃避も、平時では可能だったかもしれませんが、コロナでは流石に無理。こういった人々が、食い扶持がなくなって詐欺師に取り込まれている」(芸能事務所幹部)
名前は明かせないと前置きするが、週刊誌にも掲載された経験があるグラビア女優が大学生などを中心に広まっているマルチ商法の広告塔になっていたり、ストリート系雑誌のモデルを務めた男らが代表を務める法人が「コロナウイルスに効く」という怪しげなサプリメントを販売している。いずれも、平時であれば芸能人としてのイメージを気にして犯罪に加担することになるかもと絶対に断っていたいかがわしい「仕事」であろうが、食うに困った結果、ということだろうか。
「本物のタレント、芸能人ならちゃんと事務所が守っているから、そこまで心配することはない。問題なのは、誰でも芸能人になれるんだと勘違いして、なんとか業界にしがみついていた『自称』の人。コロナになって誰も面倒を見なくなった」(芸能事務所幹部)
コロナ禍でいよいよ夢を諦め「普通の社会人に戻ろう」としたものの、やはり仕事がない。そもそも、社会人や会社員として必要なスキルを養ってこなかった人々も多く、電話番すらつとめられないような人もめずらしくない。学び直そうとしても、コツコツ勉強を積み重ねる習慣がついていないから、学校にすら行けない。キャリアチェンジをする方法すら思いつけず、八方塞がりの「積んだ」状態に追い込まれている元タレント、元芸能人も少なくない。ここまで追い込まれてしまうと、もう夢や目標などはどうでも良くなり、ただただ日銭を求めて犯罪すら厭わない。
何十年も下積みをした俳優やタレント、芸人が、ある日一気にブレイクすることも、かつては度々、目にすることがあった。だから「自称」と言われようとも芸能人を続け、そう名乗ることで幾ばくかの稼ぎを得ていた。だがコロナ禍は、こうした人たちの淡い期待を容赦無く切り捨てた。社会にとって不必要な部分が可視化された、といえばあまりにも冷酷かもしれないが、夢を追い続ける人を容認する余裕がなくなっていることは確かで、絶望から犯罪に誘引される人々はこれからも確実に増えるはずだ。