45億円の売買交渉をしてきたが、その3倍を超える160億円の購入が決定された鹿児島県西之表市の馬毛島(時事通信フォト)

45億円の売買交渉をしてきたが、その3倍を超える160億円で購入が決定された鹿児島県西之表市の馬毛島(時事通信フォト)

 和泉詣でのことを省内では「御前報告」と皮肉を込めて呼んでいる。

 そしてこの間、安倍は首相退陣の意志を固め、20日になって菅への政権禅譲を周囲に伝えている。菅や和泉は新政権誕生も織り込み済みだったのかもしれない。

「和泉詣では厚労省だけではありません。古巣の国交省はもとより、外務省や防衛省、財務、文科などあらゆる官庁が和泉補佐官室に呼ばれ、仕事をしています」

 と前出の官邸の関係者。その和泉が目下、熱を入れているのが、鹿児島県西之表市の馬毛島の自衛隊基地建設だ。米軍の戦闘機発着訓練基地として使うため、日本政府が島の空港建設を計画。敷地を所有する不動産開発会社「タストン・エアポート」と45億円の売買交渉をしてきたが、2019年11月にその3倍を超える160億円の購入を決定した。官邸関係者が続ける。

「当初、地権者と馬毛島の交渉をしてきたのが杉田官房副長官でした。杉田さんがせいぜい60億円までとしていたところ、2年前に交渉役が和泉補佐官に移り、100億円も上乗せして購入するのです。所有者は空港の整備費用込みだと主張しているけど、造りなおさなければならない。しかも自衛隊基地建設の発注は本来、防衛省のはずですが、それが和泉さんの古巣の国交省航空局になったという情報もある」

 国交省、防衛省ともにその事実を否定するが、いずれにせよバカ高い買い物に違いない。関係者のあいだでは「森友事件の再燃」と騒がれ始めている。

 菅は第二次安倍政権で7年8カ月もの長きにわたり、政権ナンバー2の官房長官として国内政策に目を光らせ、官僚人事で力を誇示してきた。だが、個々の政策や人事に深く精通しているわけではない。それがゆえ、民間の事業者から知恵を借りてきた。菅の後ろで糸を引いているIT業界の経営者や経済学者たちの“陳情”を丸呑みし、懐刀の和泉が政策を強引に推し進めてきた。そのスタイルは政権の頂点に立った今も変わらない。しかし、国家観の欠落した偶人宰相の限界が、そこにある。(了)

【プロフィール】
森功(もり・いさお)/1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2016年に『総理の影 菅義偉の正体』を上梓。他の著書に『官邸官僚 安倍一強を支えた側近政治の罪』『ならずもの 井上雅博伝 ヤフーを作った男』など。

※週刊ポスト2020年12月25日号

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