一方2020年は、ディズニーメドレーの2曲、郷ひろみ『男の子女の子』『よろしく哀愁』、NHK連続テレビ小説『エール』の企画として『福島行進曲』『長崎の鐘』『栄冠は君に輝く』、松任谷由実『やさしさに包まれたなら』、『守ってあげたい』、石川さゆり『天城越え』、松田聖子『瑠璃色の地球 2020』(昭和61年発売の自身の原曲のためカウント)の11曲が昭和発表の歌だった。
つまり、昭和ソングはほぼ半減している。全曲数(※メドレーは1曲ずつカウント、特別企画などの歌唱含む)から比率を算出すると、2015年は26.3%(全76曲中20曲)、2020年は17.7%(全62曲中11曲)と7.3%減に留まっている。しかし、2020年の昭和ソングは“必然性”を感じられるものだった。
郷ひろみは同年に逝去した筒美京平さんのトリビュートメドレーであり、『エール』は期間平均の世帯視聴率20.1%のヒットドラマである。松任谷由実は2015年以降で最も視聴率の良かった2018年の立役者(同年の歌手別視聴率3位)で、石川さゆりは毎年『天城越え』と『津軽海峡・冬景色』を交互に歌うことで注目を集めている。『瑠璃色の地球』は上白石萌音がカバーしたことでも話題になった。“今歌う意味”を見出せる選曲だったのだ。
歌手別視聴率でも、2020年限りで活動休止の嵐が1位の47.2%、大ヒットアニメ『鬼滅の刃』メドレーを歌ったLiSAが2位の46.6%と“今”を映し出した出場者が上位を占めた。
2015年は「なぜ今この曲を歌うのか」と視聴者が必然性を感じられない場面が多く、全体的な数字が下落したのかもしれない。事実、翌2016年は昭和ソングがわずか4曲と激減した一方で、視聴率は40.2%と回復した。
実は、紅白の“ベテラン斬り”は以前にもあった。1986年に視聴率59.4%と初めて60%の“大台”を割ると、翌年に大改革が行われた。
〈過去最低を記録したのを機に演歌とアイドル歌手に偏っているといわれた選考方法を13年ぶりに見直す〉(1987年11月11日・朝日新聞)
その空気を察して、事前に辞退を発表した大物歌手が2人いた。当時の最多記録である30回連続出場の島倉千代子は11月5日、記者会見を開いた。
〈一昨年、29回目の出場が決まった時、30回を1つの区切りとしたい、と考えた。もし選考に漏れた場合、30回出場という勲章を傷つけることになる、と辞退を決心しました〉(1987年11月6日・朝日新聞)
29回連続出場の三波春夫は、こうコメントした。
〈今年の紅白歌合戦はかなり模様替えすると聞いている。引き際が肝心と思い、後進に道を譲りたい〉(1987年11月25日・朝日新聞夕刊 )