広瀬が恐妻を演じているときの、夫に向けた「フザケンナ!」などの罵声の数々は強烈だ。演じる広瀬の形相は凄まじく、テレビの前でつい耳を塞いでしまう。だが、筆者はここにも広瀬の芝居の幅を感じた。広瀬は夫に対し、怒りという一方的な“アクション”を起こしているように見えるが、実際は元春が放つ“ダメ夫ぶり”によって澪の怒りがさらに増幅する。広瀬は“ダメ夫”を演じる大倉の好演を受け取って、“リアクション”としてまた別の怒りを表現しているのだ。
その一方で、彼女が見せる天真爛漫で奔放な高校生姿には違和感や嘘くささが微塵も感じられない。もちろん、演じる本人の見た目が若く、学生服を着ているという事実もあるだろう。しかしそれ以上に、恐妻役や、社会人役を確実にものにしているからこそ、対極にある高校生役を演じられるのではないだろうか。広瀬本人は一般的な社会人経験はないようだが、同世代の俳優たちとの共演ばかりでなく、主演という大役を担ったり、時には作品の脇役としてベテラン勢に交ざってキャリアを重ねてきたことが、自身が経験したことのない役柄にも活かされているのではないかと思う。
先述したように、そもそもキャリアから見て、広瀬の芝居の振れ幅は大きい。本作での彼女は、一つの作品、同一人物でさまざまな姿を披露できる、彼女の本領発揮の機会ともなっているのだ。澪の笑顔、悲しむ顔、怒った顔、どれもがそれぞれに強い魅力を放っている。大倉演じる元春が、そんな澪に翻弄されてしまうのも頷けるというものだ。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。