ライフ

秘書が語る小松左京 創作の原点にあった戦争体験、信じた日本の未来

34年間、小松左京氏の秘書を務めた乙部順子氏(撮影/山崎力夫)

34年間、小松左京氏の秘書を務めた乙部順子氏(撮影/山崎力夫)

 未知の感染症で滅亡の危機にさらされる人類を描いた『復活の日』や、日本列島を大地震が襲う『日本沈没』など、SF作家・小松左京氏の作品は、たびたび「未来を予見していたよう」と評されてきた。そんな小松氏を近くで見続けてきたのが、1977年から34年間、小松氏の秘書を務めた乙部順子氏だ。小松氏が生誕90年をむかえたいま、その知られざる素顔について聞いた。

 * * *
 小松さんは生来明るい性格で、少年時代は「うかれさん」と呼ばれていたそうです。私にも「乙部ちゃん、乙部ちゃん」と陽気に話しかけていましたが、一方では飲み会を開くといつまでも人を帰さないほど寂しがり。上京しているときは、関西の自宅に必ず電話をかけて、奥様に「猫は元気か?」と家族の様子を確認していました。

 根っこは「うかれさん」な小松さんにとって、SF作家になる上で大きかったのが戦争体験でした。小松さんは勤労動員で人間魚雷の工場で働いたり、空襲で水ぶくれになった遺体の片付けもしたと聞きました。戦後、経済成長した日本が戦争を忘れていく中で、あの悲惨な戦争の意味を考え続けていました。

 14歳で終戦を迎えた後、京大時代に同人誌で発表した小説は、暗くて救いようのない内容のものが多い。しかし、SFと出合い、パラレルワールドなどSFの手法を取り入れることで、自分の中にあるマグマのような思いを表現できるようになった。小松さんは「戦争がなかったらユーモア作家になっていたと思う」と話していました。

 私が小松さんの全作品を読んで身に染みたのは、作品に通底するテーマが全くぶれなかったことです。彼は人類という知的生命体がどこに向かうかという大きな視点とともに、市井の人々のささやかな喜びを決して忘れませんでした。私が「小松さん、全然ぶれませんね」と声をかけると、小松さんは「アホでんねん」と一言。アホだから変わりようがない、と言いたかったのでしょう。いかにも小松さんらしい受け答えだと思いました。

関連キーワード

関連記事

トピックス

鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン