コロナ禍に通ずる「ストックデールの逆説」とは
それでは、どういうメッセージならよいのか? ここで、それを考えるヒントになる「ストックデールの逆説」という話を紹介しよう。ベトナム戦争時、7年間以上捕虜として過ごした後に無事生還した米海軍中将ジェームズ・ストックデール氏の話だ。
当時、彼は米艦の飛行部隊に所属していたが、軍事作戦中に捕虜となって収容所に入れられてしまった。捕虜収容所では、非常に厳しい状況の中で希望を保ち、仲間の捕虜たちとともに生還することが彼の課題となった。
楽観主義者の捕虜たちは、「次のクリスマスまでに収容所から出られるだろう」と考えた。何も起こらずクリスマスが過ぎてしまうと、次は「イースター(春に行われるキリストの復活祭)までには出られるだろう」と考えた。それもかなわないと、次は感謝祭……。ところが、このようにして何度も期待が裏切られていくうちに失望が重なり、ついに亡くなってしまうケースがあったという。
後に生還できた理由について、彼はこう答えている。
「この状況は必ず乗り越えられるという信念を絶対に失ってはいけない。ただし、その信念を、目の前の厳しい現実に立ち向かう規律心と混同してはならない」
彼にこのように諭された仲間たちは、彼とともに生還できたという。
つまり、楽観主義を保ちつつも、甘い期待に左右されずに現実主義で自分を律して生き抜かなくてはならない。“現実主義と楽観主義のバランス”──「制限のある楽観主義」を取ることがポイントといえる。
指導者や会社のトップは希望に満ちたメッセージを
このストックデールの逆説は、終わりの見えないコロナ禍で疲弊し切っている“燃え尽き症候群”の人に対して、指導者が制限のある楽観主義を説くことの重要性を教えてくれる。
指導者は、仮に以前の状態に戻れないとしても、むしろ以前よりも良くなることもあると希望に満ちたメッセージを伝えることに重点を置く。例えば、「リアルでのコミュニケーションは減ったが、オンライン会議アプリが普及して、遠くの人とも顔を見ながら話せるようになった」など、失われたものから可能になったものへ、話をシフトさせることができる。
会社の場合は、トップがこのようなメッセージを発することで、従業員は新しい現実を理解し、安定感を取り戻すことができる。これは、従業員のモチベーション、幸福感、仕事の生産性を高めるのに役立つだろう。