このコロナ禍、小さな飲食店のほとんどは家族の生活費を稼ぐのがやっと、手広くやっている店は人件費と賃料で断末魔なのが実情だ。しかし木村さんの店は困ってないのでテイクアウトもやっていないし生活も苦しくない。そんな店に1日6万円が突如降ってきた。木村さん、何に使うのか。
「やっぱり車しかないですね、店で使ってる軽ワゴンも古いんで、それ買い換えるくらいでしょうか」
木村さんの奥さんは足が少し悪いため、ステップの低い最新の国産小型車にしようと考えているという。つつましいが使いみちとしては理にかなっている。それでも「協力金で車を買い換えるなんて」と、生活に困窮している人々からすれば不公平感は拭えないかもしれない。しかし何度も書くが、別に木村さんが要求した金ではない、勝手に降ってくるのだ。それはどの飲食店も同じだろう。彼らが悪いわけではない。雇われには降ってこない、それだけだ。
「目立つと困るんです。だから高級車とか時計とか、そういう報道はやめて欲しい」
協力金バブルでウキウキの店主は確かにいる。だが大半はコロナ禍の経営難に苦しんでいる。苦しんでなくとも、まともな店主は妬みの対象になることにおびえている。
国民に不平等感を植えつけて争わせるのは為政者の常套手段だ。飲食店だけ1日6万円という大盤振る舞いのインパクトにまんまとハマった感もある。まして日本政府はこんな断末魔でもオリンピックを強行するという。サラリーマン、派遣、アルバイトなど雇用されている5660万人は協力金も給付金もない状態でオリンピックに突き進む。兵飢えて将ご満悦、まさに令和のインパール作戦だ。
本当に悪い連中は協力金を振り込まれる飲食店でも、その協力金を使う店主でもない。被雇用者は生活保護があるじゃないかと突き放し、飲食店ならミソもクソも1日6万円、こんな雑なバラ撒きしかできない「バカな大将、敵より怖い」の大将どもだ。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。2017年、全国俳誌協会賞。2018年、新俳句人連盟賞選外佳作、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞。寄稿『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)、著書『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)など。