純文学志望だった吉村昭に『戦艦武蔵』を書かせ、井伏鱒二「姪の結婚」を『黒い雨』に改題。新田次郎や瀬戸内晴美や岡本太郎を見出したのも齋藤だ。なかでも山崎豊子との深い“師資関係”にはたまげる。しかし、齋藤は〈二十一世紀なんて見たくもない〉と嘯き、00年12月、86歳で没した。
彼の最大の遺産は〈新潮ジャーナリズム〉そのものだと森氏は言う。
「彼自身は現場がどう動いたかも知らないし、興味もない。出てくる結果だけに興味があるんで(笑い)。やらされる方はたまらないけど、齋藤さんが納得するまで調べることで取材力が上がり、雑誌が売れたのも確かで、〈齋藤十一は週刊新潮で文学をやりたかった〉という伝説は僕も本物だと思う。つまり金や女や人間の暗部にも怯まず迫ってこそジャーナリズムであり、イコール文学だと、高尚とか卑俗の分を超えて具現化してみせた。
その俗への眼差しもまた、彼自身が芸術全般に通じ、一級の音楽や美術や文学に触れてきたからこそ持てたんだろうし、媒体は紙からネット等々に代わるにしろ、人間が興味を抱き、見たい、知りたいと思うものの根幹は、僕は齋藤十一の時代もこれからも、そうは変わらないだろうと思うんです」
そんな聖と俗の順接的な関係は齋藤及び本書最大の美点といえ、彼が追求した面白さや美しさの深遠さに、今一度学びたくなった。
【プロフィール】
もり・いさお/1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新聞社、出版社勤務を経て、2003年に独立し、2008年、2009年と雑誌ジャーナリズム賞作品賞を2年連続受賞。2018年『悪だくみ「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞。著書は他に『官邸官僚 安倍一強を支えた側近政治の罪』『ならずもの 井上雅博伝―ヤフーを作った男』等多数。今月新書化された『菅義偉の正体』も話題。173cm、75kg、B型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2021年2月26日・3月5日号