国内

渋沢栄一「大河ヒット」の背景にSDGsと「物言う株主」あり

渋沢系企業が日本近代化の礎を作った(時事)

渋沢系企業が日本近代化の礎を作った(時事)

 大河ドラマ『青天を衝け』が初回視聴率20%という好調なスタートを切った。大河では長く「戦国もの以外はヒットしない」と言われ続けてきたが、今回は近代もので久々のヒット作になると期待されている。

 主人公の渋沢栄一は「日本資本主義の父」と呼ばれる明治・大正期の実業家で、実に500社もの設立に関わったとされる。その多くが今も日本のトップ企業として君臨しており、主なところでは、みずほ銀行、りそな銀行、東京ガス、大日本印刷、いすゞ自動車、JR東日本、日本経済新聞、帝国ホテルなどが渋沢を源流に持つ。

 なぜ今、渋沢だったのか。そして制作者の狙い通りに注目を集めたのか。そこには日本と世界が置かれている経済新時代の潮流が関係している。日本経済史・経営史が専門の國學院大學経済学部の杉山里枝・教授が解説する。

 * * *
 実は、渋沢への注目が一気に高まったのは5年ほど前からでした。渋沢は「企業利益だけでなく公益も同時に目指す」という考えから、事業の継続性を損なうことなく経営と社会貢献を両立させることに重きを置いていましたが、これが2015年に国連のサミットで定められたSDGs(持続可能な開発目標)と親和性の高い理念として注目され始めたのです。

 SDGsは2030年までに達成すべき目標とされています。しばらくは世界中の企業がそこを目指していきますから、今後も渋沢の経営理念が実際の企業経営の指針となる可能性は大いにあると思います。特に先進国の経済発展にとっては、自社の利益追求だけではなく社会との共生に協力することが必要不可欠な時代になってきています。

 渋沢は多くの企業を設立しましたが、渋沢関連企業は「特色がないのが特色」と言えます。もうひとつ当時の大企業といえば財閥系企業が挙げられますが、「人の三井、組織の三菱、結束の住友」などと称されたように、優秀な人材間のつながりや結束力が強みであり、それぞれの財閥にそれぞれの特色がありました。私も三菱の研究所にいたことがありますが、たとえば三菱にはグループ企業の社長・会長が集まる「三菱金曜会」があり、グループを一つのカラーにまとめる組織力が特徴です。

一方で、渋沢は幅広い分野で起業に関わっているものの、会社の特色は千差万別です。地方企業にも多く関わったので全国的な広がりはありますが、まとまりがあるわけではない。むしろ、大手の名門企業から地方の中小企業まで、渋沢の思想や理念を受け継いで、それぞれ個性豊かに発展していったからこそ現在まで存続してきたとも言えます。渋沢は自分で設立した企業でも経営は優秀な人材に任せて、自らは相談役になるケースも多く、それぞれの経営者が個性を活かして経営し、自分はその手助けをするという考え方でした。エッセンスは渋沢が作ったものであっても、個々の経営者がそれを咀嚼して、様々な特色を持つ企業を発展させたというわけです。

帝国ホテルは渋沢が作った迎賓館だった(時事)

帝国ホテルは渋沢が作った迎賓館だった(時事)

 渋沢の理念はゆかりの企業にも継承されています。たとえば、海外の来賓をもてなすための施設として渋沢が設立に尽力し、初代会長も務めた帝国ホテルは、2011年の東日本大震災の際に被災者支援を積極的に行いましたが、その活動も100年前に渋沢が関東大震災で行った支援活動になぞらえて評価されました。

関連キーワード

関連記事

トピックス

(時事通信フォト)
文化勲章受章者を招く茶会が皇居宮殿で開催 天皇皇后両陛下は王貞治氏と野球の話題で交流、愛子さまと佳子さまは野沢雅子氏に興味津々 
女性セブン
相次ぐクマ被害のために、映画ロケが中止に…(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
《BE:FIRST脱退の三山凌輝》出演予定のクマ被害テーマ「ネトフリ」作品、“現状”を鑑みて撮影延期か…復帰作が大ピンチに
NEWSポストセブン
雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA
【天皇陛下とトランプ大統領の会見の裏で…】一部の記者が大統領専用車『ビースト』と自撮り、アメリカ側激怒であわや外交問題 宮内庁と外務省の連携ミスを指摘する声も 
女性セブン
名古屋事件
【名古屋主婦殺害】長らく“未解決”として扱われてきた事件の大きな転機となった「丸刈り刑事」の登場 針を通すような緻密な捜査でたどり着いた「ソフトテニス部の名簿」 
女性セブン
今年の6月に不倫が報じられた錦織圭(AFP時事)
《世界ランキング急落》プロテニス・錦織圭、“下部大会”からの再出発する背景に不倫騒と選手生命の危機
NEWSポストセブン
「運転免許証偽造」を謳う中国系業者たちの実態とは
《料金は1枚1万円で即発送可能》中国人観光客向け「運転免許証偽造」を謳う中国系業者に接触、本物との違いが判別できない精巧な仕上がり レンタカー業者も「見破るのは困難」
週刊ポスト
各地でクマの被害が相次いでいる(左/時事通信フォト)
《空腹でもないのに、ただただ人を襲い続けた》“モンスターベア”は捕獲して山へ帰してもまた戻ってくる…止めどない「熊害」の恐怖「顔面の半分を潰され、片目がボロり」
NEWSポストセブン
カニエの元妻で実業家のキム・カーダシアン(EPA=時事)
《金ピカパンツで空港に到着》カニエ・ウエストの妻が「ファッションを超える」アパレルブランド設立、現地報道は「元妻の“攻めすぎ下着”に勝負を挑む可能性」を示唆
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さんの胸キュンワンシーンが話題に(共同通信社)
《真美子さんがウインク》大谷翔平が参加した優勝パレード、舞台裏でカメラマンが目撃していた「仲良し夫婦」のキュンキュンやりとり
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の発生時、現場周辺は騒然とした(共同通信)
「子どもの頃は1人だった…」「嫌いなのは母」クロスボウ家族殺害の野津英滉被告(28)が心理検査で見せた“家族への執着”、被害者の弟に漏らした「悪かった」の言葉
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“最もクレイジーな乱倫パーティー”を予告した金髪美女インフルエンサー(26)が「卒業旅行中の18歳以上の青少年」を狙いオーストラリアに再上陸か
NEWSポストセブン
大谷翔平選手と妻・真美子さん
「娘さんの足が元気に動いていたの!」大谷翔平・真美子さんファミリーの姿をスタジアムで目撃したファンが「2人ともとても機嫌が良くて…」と明かす
NEWSポストセブン