逆に中国はミャンマーでは嫌われています。ミャンマーは民主化してから、中国からの投資や援助の割合を減らしてきていました。中国が有償援助をしたり、お金を貸したりという場合、金利が高いのです。世界銀行から借りた場合の金利が1%だとすると、中国から借りると4%から7%くらいになります。そして借金が返せないと実質的に中国のものになってしまうということが、スリランカなどでは起こっています。こういうことに警戒しているわけですね。だから、ミャンマー政府は中国からの投資や援助の割合を減らし、日本や欧米からの投資の割合を増やしてきました。
中国はミャンマーをどう見ているか
今回のクーデターで欧米が投資や援助を減らしてしまうと、ミャンマーは中国頼りになってしまうでしょう。現在のカンボジアやラオスがそのようになっています。さて、日本はどうするのか。欧米と歩調を合わせるか、それとも投資や援助を続けるのか。非常に難しい選択です。
中国にしてみれば、ミャンマーを押さえれば、そこから南、つまりインド洋に出られるわけです。今、日本やオーストラリア、アメリカなどは、インドを中国ではなくて、自由主義国の陣営に入れようとしています。もしそれが実現すると、中国にとっては厄介ですが、ミャンマーを押さえられれば、インド洋に自由にアクセスできるわけです。
今回、中国はミャンマーの軍事政権を批判していません。それには狙いがあります。ミャンマー情勢を知るには、ミャンマーについてのニュースを見るだけでは不十分です。中国や欧米の反応を見ることも重要です。これからも注目していきましょう。
【プロフィール】
池上彰(いけがみ・あきら)/ジャーナリスト。1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者などを経て1994年から11年間にわたり「週刊こどもニュース」のお父さん役を務め、わかりやすい解説で人気を集める。2005年NHKを退職しフリージャーナリストに。現在、名城大学教授、東京工業大学特命教授。愛知学院大学、立教大学、信州大学、関西学院大学、日本大学、順天堂大学、東京大学などでも教鞭を執る。主な著書に『池上彰の世界の見方』シリーズ、『池上彰のまんがでわかる現代史』シリーズ、『伝える力』、『私たちはどう働くべきか』などがある。