〈大阪・岸和田市で起きた事件〉
戦争で夫を失った女性が、安い月収で宝くじを売りながら生活していた。そんな中、たまたま拾った宝くじが当たっていることを知りながら、落とした人が喜ぶだろうと考えてわざわざ警察まで届けた。
警察では、警察署長が債権保全のために民法の規定に従って忠実に管理義務を履行しようとした。しかし、当時の法律に基づくと、この宝くじの当せん金の支払いや交付は請求できなかった。
やがて、このくじは時効を迎えてしまい、遺失物として届け出た女性は、謝礼金などを1円も受け取れなかった。当時、この事件は話題となり国会でも審議された。法改正の理由が次のように述べられている。
(前略)このことは、法律の甚だしき不備欠陥ともいうべきでありまして、正しい者の味方たるべき法律が却って善行者を抑圧し、結局正直者だけが馬鹿を見る結果となり、為に遵法精神は地を払い、社会道徳頽廃(たいはい)の因を作るものといわねばなりません。もともと当せん金附証票のごときは極めて紛失しやすい性質のものでありますから、岸和田市におけるこういつた事例は、今後も必ずしも絶無とは思われないのであります。(以下略)
【1954年5月6日の参議院大蔵委員会での発議者の説明】
もしこの法改正がなされないままだと社会道徳頽廃の原因となったかどうかはさておき、このような経緯で、この条文は追加された。
遺失物として管理している宝くじについて、当せん金の時効消滅が近づいたら、法律に従って警察署長が支払い請求をするはずだ。したがって、街中で宝くじの落とし物を拾ったら、遵法精神を遺憾なく発揮して警察に届けるべきと思われるが、いかがだろうか。