国内

被災地 巨大防潮堤に複雑な思い「まるで知らない街のようで…」

aa

陸前高田市に建設された防潮堤。全長2km、高さは12.5mにも及ぶ(撮影/水田修)

 東日本大震災から10年、瓦礫の山だった場所は更地になり、街は新しく生まれ変わった。震災でおよそ1800人が亡くなった岩手県陸前高田市は、江戸時代に植林された高田松原の7万本を津波で失った。流されず、そこにとどまった1本が、復興のシンボルとしてメディアでも大きく取り上げられた「奇跡の一本松」だ。

 震災後、海水による損傷で枯死したが、保存プロジェクトにより再建された。周辺は、約130ヘクタールという広大な敷地を持つ「高田松原津波復興祈念公園」として、整備されている。高田松原をよく訪れていた佐藤テル子さん(82才)は、津波で48才(当時)の長男を亡くした。

「震災後に入居した仮設住宅の窓から、ちょうど奇跡の一本松が見えました。あの辺りは長男がまだ幼かった頃によく訪れ、祭りのときには綿あめやおみくじをねだられた場所です。いい思い出ばかりだから、一本松が息子のように見えて、『何とか生き残ってほしい』と願っていました。

 震災当時は本当に悲しくて苦しかったけど、一本松に救われた思いでした。風景は一変したけれど、コロナ禍が落ち着いたら、ぜひ皆さんに陸前高田に来てほしいですね」(佐藤テル子さん)

 10年という時を経て、壊滅状態だった街は瓦礫のひとつも残らず、生まれ変わった。岩手、宮城、福島の被災3県には、総延長395kmに達する防潮堤も建造された。数十年から数百年に1度の津波に耐えられる規格で建造されており、高さは最大15.5mもある。この頼もしい「巨大な壁」に対し、「おかげで景観がすっかり変わってしまった」と語るのは、福島県浪江町西大行政区区長の大倉満さん(71才)。

「この付近は海沿いにでっかい防潮堤ができて、もう昔のように海は見えません。私が小さい頃から知っている街はすっかりなくなってしまった。自分の故郷でありながら、まるで知らない街のようで、本当に気持ち悪い感じがします」(大倉さん)

 津波にさらわれた街が新たに防災設備を備えたからといって、「元通り」とはいかない。宮城県気仙沼市の怪談作家・小田イ輔さんも、「この10年で状況は大きく変わった」と語る。

「東京のような大都会は、日々新たな建物が造られては壊され目まぐるしく変化するものですが、東北の田舎の街並みは、いつまでも変わらないと思っていました。津波でほとんど流された街は都市計画に沿ってかさ上げされ、道路の通り方が変わり、それにあわせてコミュニティーは変化し、震災前の面影はほとんどありません。

 もとの街は文字通り、地面の下にあります。よく、過去と未来を語るときなんかは、右が未来で左が過去というふうに横方向で描かれるのが常ですが、震災前後の時間軸は、上下の方向なのではないかと感じます」

 ある程度の時間をかければ、街は再建される。しかし、目に見えるものだけが犠牲になったのではない。10年分の苦しみ、悲しみ、恐怖、孤独、あらゆる感情が地層のように東北の地と被災者の心に積み上がっている。

※女性セブン2021年3月25日号

aa

地元住民からは「さんてつ」の愛称で親しまれる三陸鉄道。南北163kmのリアス線となって生まれ変わった(撮影/水田修)

関連記事

トピックス

役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さんが今も築地本願寺を訪れる理由とは…?(事務所提供)
《笑福亭笑瓶さんの月命日に今も必ず墓参り》俳優・山口良一(70)が2年半、毎月22日に築地本願寺で眠る亡き親友に手を合わせる理由
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月20日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン