松下洸平も評価を高めた(公式HPより)
たとえ鬼の形相の澪でも、演じる広瀬さんはどこか透明感があって、夫に激しく感情をぶつけても意地悪で言っているのではなく納得できる理由があった。澪のキャラクターは、ねじれていない素直さがあり、もちろん容姿も多忙な母なのに整ってキレイ。リアルの負の側面-「惨めさ」「意地悪さ」を見なくて済むよう、「こうあってほしい効果」と「あるある効果」とを上手に両天秤にかけながら進めていったのです。
これは大倉忠義さんが演じたダメ夫・元春にしても同じことがいえそう。妻の悩みを聞こうとせず、理解しない夫。しかし妻に罵倒されてもどこかで澪のことを思い続けている。そして最後に「俺は澪のことを全然見ていなかった。俺がモンスターにした。すまなかった」と率直に頭を下げて謝る。まさしく視聴者が溜飲を下げるシーン。「こうあって欲しい効果」そのものでした。
対して澪も「絶対に一方だけが悪いということはない」と自分の非を認める。もし、これがリアルなら夫婦の価値観がズレてぶつかり、決裂-離婚となりそうなところですが、互いをつなぎとめていく二人の姿こそ、「こうあって欲しい」夢そのもの。
また、職場の同僚・津山主任を演じた松下洸平のフェミニンさに救われた視聴者も多いはずです。優秀な上司が自分をきちんとわかってくれ評価してくれて、しかも女性として求めてくれたらもう、これ以上の夢はありません。ここにも「あって欲しい効果」が上手に使われていました。
振り返れば、撮影の途中で大倉さんが新型コロナウイルスに感染。共演者やスタッフは全員陰性だったそうですが大倉さんの体調が回復するまで撮影は中止となり、まさしく「生みの苦しみ」に直面し艱苦の中で完成した作品でもあった。ドラマの最後の方に「失って初めて、大切さに気付く」というキラーワードが出てきましたが、この作品自体が、撮影時間を失った時制作陣がその大切さをより深く実感したのかもしれません。
「人生は選択の連続だ」「悲しい時はラブストーリーを口実に泣くんです」「とり戻さなければいけないのは、澪と生きると決めた自分」。名言をたくさん生んだ脚本も光っていた。
「あるある」というリアルと、「あって欲しい」夢とを共存させた秀作でした。