2020年の緊急事態宣言時には、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため公園の大型遊具が使用禁止となった(時事通信フォト)

2020年の緊急事態宣言時には、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため公園の大型遊具が使用禁止となった(時事通信フォト)

「朝はラジオ体操、昼間は日光浴をする高齢者しかいません。夕方には人がいなくなって、夜はタバコを吸ったり酒を飲む若者に占拠され……。普通の利用者が減り、一気に公園周辺の治安が悪くなったような気がします」

 こう話すのは、神奈川県内在住の会社員・吉本誠さん(40代・仮名)。自宅でテレワーク中だという吉本さんは、部屋から見える公園から子供達の声が消え、環境がガラリと変わってしまったと振り返る。変わった原因というのが、やはり「自治会からの貼り紙」だった。

「コロナ禍以降、公園で遊ぶ子供達の数は確かに増えました。休みの日などは早朝から子供達の元気な声が聞こえ、騒々しく感じることはありましたが、クレームを入れる人がいるとは驚きでした。自治会名で張り出された『お願い』という紙には、子供達の声がうるさく、近隣に住む老人の健康被害が出ている、とまで書いてあったのですから」(吉本さん)

 貼り紙が出されたのは昨年のゴールデンウィーク以降。それを見て過敏に反応したのか、親子連れはもちろん、子供だけで遊ぶ姿もすっかり減り、代わりに増えたのは老人だ。

「園内での飲食、喫煙はダメなはずなのに、最近では、高齢者が弁当を持ってきて酒盛りまでしています。禁止されているペットの散歩もお構いなしで、園内に糞尿をさせて、後始末もしない。自治会の若いメンバーの一人が、違反をしている高齢者について声をあげたそうなんですが、高齢者が多い自治会では、高齢者の意見しか通らない。自治会なんて高齢者しかいませんからね」(吉本さん)

 調べたところ、筆者の住む地域でも同様の問題が勃発していた。取材をしてみると聞こえてくるのは、やはり「高齢者の意見しか通らない」という自治会内の動き、そして行政の対応である。

 行政からみると、まっさきに声をあげたのは高齢者で、自治会や老人クラブなどを通じて行政に最初に働きかけたのも高齢者だった。その後、公園で子供を自由に遊ばせたい、という若い子育て世代の声も無いわけではないが、単発的なもので、記録に残る文書など正式な形で申し入れをする人も滅多にいないから、対応すべき「市民の声」としては蓄積されない。そのため、行政が対応するのは高齢者からの要望になってしまっている、といった実情のようだ。筆者の住む自治体の公園管理担当者は、こちらの質問に声を潜めるように答える。

「公園だけでなく、自治体が管理する公民館、体育館、スポーツ施設でも高齢者に利用しやすいようにして欲しいという声を受け、対応しています。それは、行政が高齢者を優遇しているというわけではなく、要望があるから。若い世代は、不満に思ってはいても、しっかり声をあげようという人が少ない。結果として、若い世代の要望は『ないもの』と看做される」(自治体の公園管理担当者)

 高齢者人口が多いことが、そのまま影響しているような裏事情だが、都心の比較的大きな公園では、こうした問題は起きていない模様である。都心の大きな公園は、地元住民だけが利用するわけでなく、遠方からわざわざ訪れると言う人も多い。トラブルの多くは、少し外れた郊外、そして古い住宅街が壊され新しい街並みが作られたエリアなど、高齢世代と若い世代が同居する地域で起きており、地元住民の憩いの場としての公園をめぐり、ニューカマーの若い家族が越してきたことで発生しているような感覚すらある。

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