実際、『桐島、部活やめるってよ』の出演者の多くが現在の映画界を支える存在になっているのは事実だ。同作で俳優デビューを飾った東出昌大(33才)がいくつもの作品を座長として背負う存在になったことは広く知られているし、仲野太賀(28才)は主役をこなす一方で“名バイプレイヤー”としての顔をも持つまでになった。松岡もそのうちの一人である。“松岡茉優オンステージ”を繰り広げた初主演作『勝手にふるえてろ』(2017年)や、世界中で好評を博した『万引き家族』(2018年)、等身大の恋物語を演じ共感を呼んだ『劇場』(2020年)など、着実にキャリアを重ねる過程で代表作も得て、9年ぶりに吉田組に帰ってきたのだ。

 今作では、当て書きの大泉はやはりハマり役だが、それに張り合う松岡は特に素晴らしい。口コミにも、「主演は松岡茉優だ」という言葉がいくつも見られるほど。その口コミ通り、彼女は演じるキャラクターを完全に自分のモノにし、喜怒哀楽をときに大胆に、ときに繊細に表現し、観客の視線を釘付けにしている。

 それを象徴する印象的なシーンが冒頭にある。編集者である高野の元に届いた原稿に彼女が誤ってコーヒーをこぼしてしまうのだが、ここで松岡は原稿に対し、ごく自然に「ごめんなさい」と口にする。筆者も自分の大切なものに対してうっかり粗相をしてしまった際に、このように独り言を発することがあるが、実生活で身に覚えがある方も少なくないのではないだろうか。しかし、心から大切だと思っていなければ、こんな言葉は出てこないだろう。

 たった一言だが、このシーンに高野という人物の性格がよく表れており、観客は彼女がどんな人間なのかをこの一瞬で認識する。これが予め用意されていたセリフであるにせよ、咄嗟に出たアドリブであるにせよ、キャラクターの性格を掘り下げて自身のモノにしていなければ、“自然な一言”にはならないのではないだろうか。こうした些細な言動に、松岡の演じ手としての凄みが表れているように思うのだ。

 今作の座組で彼女が中心に立っているのは、彼女が映画界の中心に立っていることの証とも言える。今作を観れば、誰もがそれを実感できることだろう。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

「第65回海外日系人大会」に出席された秋篠宮ご夫妻(2025年9月17日、撮影/小倉雄一郎)
《パールで華やかさも》紀子さま、色とデザインで秋を“演出”するワンピースをお召しに 日系人らとご交流
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
2024年末、福岡県北九州市のファストフード店で中学生2人を殺傷したとして平原政徳容疑者が逮捕された(容疑者の高校時代の卒業アルバム/容疑者の自宅)
「軍歌や歌謡曲を大声で歌っていた…」平原政徳容疑者、鑑定留置の結果は“心神耗弱”状態 近隣住民が見ていた素行「スピーカーを通して叫ぶ」【九州・女子中学生刺殺】
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(左/共同通信、右/公式サイトより※現在は削除済み)
《“やる気スイッチ”塾でわいせつ行為》「バカ息子です」母親が明かした、3浪、大学中退、27歳で婚約破棄…わいせつ塾講師(45)が味わった“大きな挫折
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
9月6日に悠仁さまの「成年式」が執り行われた(時事通信フォト)
【なぜこの写真が…!?】悠仁さま「成年式」めぐりフジテレビの解禁前写真“フライング放送”事件 スタッフの伝達ミスか 宮内庁とフジは「回答は控える」とコメント
週刊ポスト
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン