ライフ

書評『イマドキの裁判』不貞、人工授精…複雑化する社会の新たな規範

『裁判官だから書けるイマドキの裁判』著・日本裁判官ネットワーク

『裁判官だから書けるイマドキの裁判』著・日本裁判官ネットワーク

【書評】『裁判官だから書けるイマドキの裁判』/日本裁判官ネットワーク・著/岩波ブックレット/720円+税
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

 現代社会は、想像以上に多様化し、複雑化している。それだけに法律が、現実に追いついていない側面がある。

 裁判所に求められる役割にしても、トラブルを裁き、「権利の保護」や「社会の安定」を保つ紛争解決機関だけでない。「現在及び将来の日本社会」に不可欠な価値観を生み出し、社会に定着させることが求められているのである。「石を一つずつ積み重ねて擁壁や護岸」を築くのと似て、日々の判断の集積が、あらたな規範となるからだ。この変革のウエーブに焦点を当てたのが本書だ。

「不貞(不倫)裁判」にしても、いまや男女間だけでなく、「同性間の性交渉」が訴えの対象となる時代だ。夫が、男性と性交渉をもった場合、貞操を守らず「婚姻共同生活の平和の維持」を乱したとして不法行為責任が問われることに。

 人工授精に関する争いも多様化している。「凍結保存していた受精卵を別居中の妻が無断で移植し出産」したケースでは、「夫の『子をもうけるかどうかという自己決定権を侵害した』」として、妻に慰謝料の支払いが命じられた。

 有期雇用やパートタイムなど非正規労働者の数が、正社員の2倍となるなか、正社員と非正規労働者の扶養手当や有給休暇などの待遇格差を「不合理な相違」とする最高裁判決も出されている。

 立場の弱い非正規労働者にとって朗報とも言える判決だが、裁判を起こすとなると、弁護士費用や「法廷で尋問を受ける時間的負担」に加え、会社側弁護士による攻撃など「精神的苦痛を覚悟」しなければならない。

「未払賃金やリストラ等による解雇」など、比較的論点が明確な争いは正式裁判ではなく、「労働審判制度」の利用を本書は薦めている。数万円程度の費用で、「約八割」の人が「納得性の高い適正・迅速」な結果を得ているからだ。

 実例をもとに、裁判所の機能や活用方法を説き、法廷での裁判官の心情まで解説している。ブックレットながら内容の濃い実用書に仕上がっている。

※週刊ポスト2021年4月16・23日号

関連記事

トピックス

2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
卓球混合団体W杯決勝・中国-日本/張本智和(ABACA PRESS/時事通信フォト)
《日中関係悪化がスポーツにも波及》中国の会場で大ブーイングを受けた卓球の張本智和選手 中国人選手に一矢報いた“鬼気迫るプレー”はなぜ実現できたのか?臨床心理士がメンタルを分析
NEWSポストセブン
数年前から表舞台に姿を現わさないことが増えた習近平・国家主席(写真/AFLO)
執拗に日本への攻撃を繰り返す中国、裏にあるのは習近平・国家主席の“焦り”か 健康不安説が指摘されるなか囁かれる「台湾有事」前倒し説
週刊ポスト
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン
パーキンソン病であることを公表した美川憲一
《美川憲一が車イスから自ら降り立ち…》12月の復帰ステージは完売、「洞不全症候群」「パーキンソン病」で活動休止中も復帰コンサートに懸ける“特別な想い”【ファンは復帰を待望】 
NEWSポストセブン
「交際関係とコーチ契約を解消する」と発表した都玲華(Getty Images)
女子ゴルフ・都玲華、30歳差コーチとの“禁断愛”に両親は複雑な思いか “さくらパパ”横峯良郎氏は「痛いほどわかる」「娘がこんなことになったらと考えると…」
週刊ポスト
話題を呼んだ「金ピカ辰己」(時事通信フォト)
《オファーが来ない…楽天・辰己涼介の厳しいFA戦線》他球団が二の足を踏む「球場外の立ち振る舞い」「海外志向」 YouTuber妻は献身サポート
NEWSポストセブン
海外セレブも愛用するアスレジャースタイル(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
「誰もが持っているものだから恥ずかしいとか思いません」日本の学生にも普及する“カタチが丸わかり”なアスレジャー オフィスでは? マナー講師が注意喚起「職種やTPOに合わせて」
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「旧統一教会から返金され30歳から毎月13万円を受け取り」「SNSの『お金配ります』投稿に応募…」山上徹也被告の“経済状況のリアル”【安倍元首相・銃撃事件公判】
NEWSポストセブン