デートカーにも使える「最低限の快適さ」
このように、バランスを極限まで追求したチューニングによってきわめて高い走行性能を持つに至ったGRヤリスだが、高揚感を覚えるようなキャラクターかというと、そうではない。これは先に述べたように、速く走るためのクルマづくりが開発目的になっているからであって、それを実現させるために愉悦に浸るための玩具感という無駄は排除されているのだ。
このクルマにおけるプレジャーは、丹精込めて作られたホモロゲーションモデルを所有し、転がすというライフスタイル、あるいは自分のやったことがすべて正直に出るクルマを使って自分のドライビングテクニックを磨くといった部分にあると言える。
乗り心地は固いが良い。これも良くできたラリーカーを公道向けにしつらえ直したクルマであるように感じさせる部分である。
スペックシートを見ると試乗車のRZハイパフォーマンスはシリーズ中一番サスペンションが固いらしいが、それでもデートカーとして使っても助手席から文句が出ない最低限の快適さは保たれているように感じられた。さらにしなやかさが欲しければ、普通のRZを選べばいいだろう。
驚きの加速と興味深いエンジンサウンド
次にパワートレイン。エンジンは排気量1618ccの3気筒直噴ターボ。性能は最高出力200kW(272ps)、最大トルク370Nm(37.7kgm)。排気量1リットルあたりの出力は168.0psと、かなりのハイチューンである。車検証に記載された車両重量は1290kgで、パワーウェイトレシオは4.74kg/psと、ハイパフォーマンスを名乗る目安のひとつとされる5kg/psをきっちり切ってきている。
GPSを用いて0-100km/h加速タイムを測ってみたところ、欧州で発表されている公称値と同じ5.5秒と、素晴らしい俊足ぶりを示した。借り物のクルマということでクラッチをちょっといたわるような感じで発進したのだが、それでこのタイムである。十分に回転を上げ、ドーンと発進すればあと0.1~0.2秒くらい簡単に詰められそうだった。
このエンジンはピークパワーもさることながら、普通にドライブしている時の柔軟性も高く、非常に扱いやすいのが特徴。モータースポーツではエンジンが大きなパワーを出す範囲が広ければ広いほど有利とされているが、そのセオリーにしっかり則った設計がなされているようだった。
面白いのはエンジンサウンド。大人しく走っているときはごく静かなのだが、アクセルの踏み込みが深くなると“ボロロロロロ…”という、昔のスバルの水平対向4気筒エンジンのような音になる。3気筒と4気筒ではエンジンの倍音成分が異なるのだが、どういう原理でそうなるのか。エンジンへの吸気音を増幅させるボックスか何かがついているのかと思いきや、スピーカーで倍音成分を加えているのだそうだ。