飲む側も、当初は缶をコンビニのレジ袋に包むなどして隠して飲んでいたというが、飲む人がどんどん増えてくると、隠し飲みする人は減っていった。そして、やはり喫煙所で「宴会」を楽しむ人も出現しているという。さらに……。
「喫煙所で飲んでいる人たちはある種、開き直っているのでいいですが、開き直れない人もいるようで。多目的トイレのゴミ箱に空き缶やおつまみのゴミが入っていたり、真っ暗な非常階段に座り込んで酒を飲んでいる若いサラリーマンがいたり。家に帰って飲めばいいのにと思いますが、なんなんでしょうね」(畑島さん)
酒を飲まない人、適度に楽しむ人にしてみれば、このような「疑問」を抱くのも当然の事かも知れない。一方、当の飲兵衛側からもこうした風潮を歓迎しない、との声が聞こえてくる。
「以前は週4で飲みに行っていたくらいですから、今の状況は地獄。時短営業店で飲んでも、一番調子が上がってくる時間に店を追い出される。本当は一人で酒を飲みたいなんて気持ちはなく、家でもほとんど飲まなかったのに、コロナで一人飲みせざるを得なくなってからは、酒の量まで増えてしまいました」
埼玉県在住の大手商社社員・三井雄喜さん(仮名・30代)は、昨年の緊急事態宣言以降、飲酒量が倍以上になり、翌朝起きられなくなるまで深酒をする機会が増えたと項垂れる。
「一人飲みだから早く酔えて適量しか飲まない、と思われていますが違いますよ。私も帰宅時の電車で酒を飲んでいましたが、それがどんどん広がり移動の際には帰宅時でなくても酒を飲むようになってしまいました。タクシーやバスでも、酒がないと落ち着かない。休日、子供たちと動物園や美術館に行く時も、こっそり水筒にレモン酎ハイを入れていく」(三井さん)
酒は好きだが、酒に飲まれたことはないと自負していた三井さん。コロナ禍による「飲酒の自粛」とも言える社会の風潮に抗うまでの気持ちはないようだが、禁止されたり、飲むべきではないと言われると、余計に飲みたくなってしまい、飲む時と飲まない時の境目がなくなってしまった。そして、酒量も以前より増えたのだ。
「在宅勤務が増えた社内にも同じような人間はいて、リモートワーク中に酒を飲むなんて普通のことになっちゃいましたね。たまに出社してるなと思うと酒臭い社員がいるし、社屋ビル内のコンビニの酒も以前より売れているらしい。ガランとしたオフィスで、真っ昼間からスーツ姿で酒を飲む、という背徳感が良いという同僚もいます」(三井さん)
飲酒の場で感染が広がっている、というのは事実だろうし、居酒屋などへの時短営業要請も理解はできる。飲み控えしよう、感染したくないから我慢しようという人がいる一方で、行政や世間からの抑圧を感じ、以前にも増して飲酒の機会が増えたという人々がいる。ここまでくると、適度な飲酒でバランスがとられていたメンタルの崩れを心配したほうが良さそうにも思えてくるが、コロナに振り回される生活にならなければ、こんな問題も浮上しなかったことだろう。
コロナに気をつけていても、過度な飲酒で体を壊してしまう、なんてことになれば元も子もない。