これから社会人になる若い人たちに伝えたいのは、会社という「伽藍の世界」を飛び出してフリーランスになるのは、けっして不合理な選択ではないということです。そればかりか、常識に反して、日本でこそ「フリー」の働き方が有利になるかもしれません。
理由のひとつは、日本では優秀な人が官僚や大企業などのたこつぼ組織に閉じ込められているので、フリーランスのライバルが少ないことです。もうひとつは、「失われた30年」を経ても日本経済はなんとか世界第3位の規模を維持していて、国内でそこそこ成功するだけでもじゅうぶん食べていけることです。最後は、大企業で実権を握る中高年層がITをほとんど理解できず、「よくわからないけど、他社にもっていかれるよりいいか」とポンとお金を出してくれることです。
東京大学の周辺にはベンチャー企業が集まり、最近では「本郷バレー」などといわれていますが、そこで話を聞いた若者はまさにこの3つのアドバンテージを理解していました。「好きなことをして生きていくのに数兆円のお金など必要ないから、シリコンバレーでチャレンジするのは確率が低すぎる。ぬるい日本でさっさと億万長者になった方がぜんぜんコスパがいい」と言ってましたから。
高度化した知識社会では、あらゆる仕事で高い専門性が求められます。ところが日本の会社は、社員をいろいろな部門を回して人員調整するので、いつまでたっても専門性が身につきません。こうして、足らない専門性をフリーランスに依存するようになっています。
だとしたら重要なのは、「好きなこと、得意なこと」を見つけたら、そこにすべての資本(リソース)を投入してライバルに差をつけることです。それ以上に大事なのは、「好きなこと、得意なこと」をマネタイズする方法を見つけることでしょう。どれほど得意でも、一銭にもならなかったらただの趣味です。
次に大事なのは、ロングテールを目指すなら成功確率を慎重に考えることです。いくらゲームが好きでも、ゲームユーチューバーで成功できるのはほんのわずかで、その背後にはほとんどアクセスを稼げない膨大な「敗者(ショートヘッド)」がいます。歌手や芸能人、スポーツ選手も同じですが、ひとびとの憧れになるのは、ものすごくきびしい競争を勝ち抜いたからです。華やかな職業は魅力的かもしれませんが、自分がごく少数のロングテールになれる可能性がどれほどあるのか……。まあ、どんな人生を送るのかは個人の自由なので、こんな説教をするのは野暮ですね。