前作より格段に表情が細かくセリフ回しが多彩になり、演技の幅や奥行きが広く深くなっているのだ。それゆえ阿部さん演じる桜木は、器用なのか不器用なのか、真面目なのかシニカルなのか、誠実なのか斜に構えているのか、冷めているのか情熱的なのか、そうしたどちらの顔も感じさせる、内に秘めた複雑な魅力を醸し出している。そんな役柄を通して、爽やかでいて凄みと渋みがある重厚感や、硬質ながらも柔らかさも持ち合わせた存在感を、今の阿部さんに感じるのだ。
『はいからさんが通る』で映画デビューした当時は、189cmの長身と彫の深い二枚目でモデル出身、イケメンで背が高いだけという「希少性バイアス」うぃ感じさせる個人的には面白みのない俳優という印象だった。希少性バイアスは、手に入りにくい、数が少ないものほど、その中身や内容にかかわらず価値がある、魅力があると思う傾向である。
その後、舞台やVシネマで経験を積んだというが、追っかけてまで興味を持って見るような俳優ではなかった。だが、仲間由紀恵主演のドラマ『TRICK』(テレビ朝日系)に前作の『ドラゴン桜』、『結婚できない男』(関西テレビ)と、ドラマに出演するごとに魅力が増していった。大ヒットした映画『テルマエロマエ』は、役柄とルックスがぴたりとはまり、阿部寛でなければならないほど見事な味を出していた。
その後の活躍は言うに及ばずだろう。甘いマスクと背の高さはもはやバイアスではなく、彼の演技と演じる役柄に相乗効果を与える武器となり、阿部寛という俳優の希少性を生み出している。
今回の『ドラゴン桜』では、阿部さん演じる桜木にどんな展開が待っているのか。きっとさらに魅力的な阿部寛に出会えるような気がする。