「まずは木型をもとに革を縫っていけるようにしましょう。最初は、木型にマスキングテープを貼って、型紙を作るところから始めます」
木型に3枚のテープを貼り、立体を平面にする作業を行う。なるべくシワを作らず、無駄なく効率的にテープを貼らなくてはいけない。優一氏は難なく貼っていたが、いざ自分が貼ろうとすると、テープの角度や重ね方、長さなど細かい部分で何度もまごついてしまった。
それでも3回ほど繰り返していると、少しはサマになってきた。
「いいですね、上手くなってますよ!」
一区切りついたところで、近くのレストランで一緒にランチに行った。
苦笑いの「ランチ」
優一氏はカツカレー、私はハンバーグを注文した。
「あ、すみません、手止めちゃって。注文いいですか?」
私の前だからかもしれないが、優一氏は店員さんの前でも極めて物腰が穏やかで、口調も丁寧だった。料理が到着すると、優一氏はいつの間にか箸袋を畳んで箸置きを作っていた。
通常の取材だと、“次は何を質問しよう”、“こんなことを聞いたら気を悪くするかな”など、頭をフル回転させて会話に臨むが、この日はあくまで師匠と弟子の関係。むしろ、弟子が師匠に向かってアレコレ質問するのは不自然なので、黙々と料理を口に運んだ。
私が大してしゃべらずにいると、優一氏が時々話しかけてくれた。
「うちにいらした時って、取材の目星を付けてから来られたんですか?」
前回のインタビュー取材を申し込む際、私は優一氏を自宅で直撃していた。
「そうですね。ピンポンするのが良いか、家から出てくるのをじっと待つほうが良いか、結構迷うものなんですよね」
「どっちも嫌だなあ……」
「いやあ、申し訳ないです」
お互い、苦笑いするばかりだった。