“キモくて金のないおっさん”をKKOと呼び、内藤さんも自認するが、改めて考えると内藤さんは働いているので薄給とはいえ生活とオタク活動するだけの金はある。むしろ”キモくて孤独なおっさん”の意味でKKOのほうが多くに当てはまる気がするが、どうか。
「確かに。職場に親しい人はいませんし、オタクの友人も物でつながってるだけですからね」
キモくて孤独なおっさんなりに生きていかなければ
6月11日に政府が発表した高齢社会白書によれば、家族以外でお互いに相談や世話などをする友達がいないと答えた60歳以上の高齢者は31.3%に及んだ。相談したりされたりすると答えた人に至ってはわずか20%。60歳以上の話と思うなかれ、団塊ジュニアはもう10年20年でこの年齢に達するが、令和2年版の厚生労働白書によれば2015年時点における40代男性の生涯未婚率(一度も結婚したことのない人の割合)は40歳~44歳で30%(!)、45歳~49歳で25.9%である。後者はいわゆるバブル世代だが、おそらく2021年時点ともなれば40代男性の生涯未婚率は30%を超えているだろう。つまり40代の3人に1人は結婚経験のない独身のおっさんである。もちろん、結婚するしないは個人の自由だが、この層のほとんどが60歳以上の生涯未婚高齢者にスライドするのは確かだ。
「結婚しないんじゃなくてできない男がほとんどですよ。女にモテモテの優雅な独身貴族なんて少ないでしょ。大半は僕と同じ、キモくて孤独なおっさんです」
そうは言っても内藤さんはおしゃべりなほうで口下手ではなく好きな話題なら饒舌だ。保育士時代はブサイクで面白いお兄ちゃん、いわゆる「芸人枠」で通してきた。ブサイクは笑われることを武器にするしかないという。現在の施設でも口の悪い老人にいじられながらも芸人枠で通している。顔で笑って、心で泣いて。
「それでも心って正直ですね、以前は格好とか気にしてたのに、無駄な努力ってどうでもよくなりました。僕が着るとダサいけど、イケメンなら “外し”ですから」
内藤さんだって努力はした。保育士という仕事柄、身だしなみにも気を使った。内藤さんによれば子どもは正直で、それ以上に保護者の手前もあるという。別にカッコつけたわけではなく、ただ清潔で、まっとうな服装を心がけた。しかし前述の通り、保育園は辞めざるをえなくなった。それから工場の派遣、倉庫、介護士、警備員と職を転々とし、介護士(二度目)に至った。内藤さんは無駄なことはしないと決めた。
「汚くはしませんけど、努力はしないというだけです」
言われてみれば内藤さん、これまではオタクファッションの定型に抗うような若者向けの小綺麗な格好が印象的だったが年齢相応の地味な出で立ちになった。社会生活、仕事に影響がない程度で構わないということか。
「どうせキモメンのおっさんが何しても無駄ですからね。老人にまで容姿を否定され続けて、前より悪化してる気がします」
以前、内藤さんは「だったらみんなが思うようなヤツになってやろうかと思う自分がいる」と語っていた。解釈はそれぞれだが、まるで映画『ジョーカー』のアーサーのようだった。
「僕もあの映画には衝撃を受けました。影響も受けたかもしれません。キモいおっさんは誰も助けてくれません」