お婆ちゃんたちの口の悪さには驚かされた(イメージ)

お婆ちゃんたちの口の悪さには驚かされた(イメージ)

 内藤さんの施設はアッパーミドルクラスの老人たちが入る。みな口は達者で元気、余裕があるからこその老人ホームだ。老人ホームといってもピンキリ、高級ホテルのような老人ホームもあれば、入居金が安く一般サラリーマンの年金で入れる老人ホームもある。内藤さんの施設はその真ん中くらい、大手企業の部課長クラスとその奥さんが入る感じか。中途半端な施設のほうが人間関係は難しそうだ。

「施設のグレードは関係ないと思います。人間それぞれですし、優しくて容姿のことなんか気にしない方もいます。でもお婆ちゃんでもあんな風にブサイクな男の容姿をあれこれ言うとは思いませんでした」

 イケメン演歌歌手やシニア向け歌謡曲のグループなど、高齢女性をターゲットにしたアイドルコンテンツも多い。内藤さんの言う通り、年をとったって女性は女性、それは若い女の子にデレデレのお爺ちゃんと同じだろう。

「でもね、傷つきますよ。もうキモメン人生には慣れっこですけど、まさか年寄りにまで容姿のことをいじられまくるなんてね。それも馴れ合いの冗談とかじゃなく本気で気持ち悪がるんですから」

 お婆ちゃんたちは戦前戦後まもなくの生まれ、ルッキズムもコンプライアンスも知ったことではない時代の方々である。1970年代の人気バラエティ番組『TVジョッキー』の「珍人集合」コーナー(出っ歯大会、エラはり大会、ペチャパイ大会、オカマ大会と称して一般人を笑いものにするコーナー、一応は”希望者”という体をとっていた)など家族揃って喜んで観ていただろうし、他にも奇形の人を集めて面白がるような番組だってあった。そもそも日本各地のお祭や縁日の見世物小屋(いわゆるフリークショー)で化け物に見立てた身体障害者が普通に陳列されていた世代である。悲しい歴史だが障害者基本法施行後も地域によっては昭和50年代くらいまで存在した。それほど古いわけではない。

「昔の差別意識のまんま年取った人たちだから容赦ありません。もう治せないし、治す気もないでしょう、あの作家さんみたいに」

 そう、内藤さんが筆者を呼び出したのは御年80歳を超える作家先生が元野球選手の顔をクソミソに書いたことがきっかけだった。あの件は自身の境遇とシンクロしたのだろう、内藤さんはアップデートされない世を嘆く。

「きっと(相手が)女性だったらブスだのキモいだの書いてませんよ。男だからいいだろう、なんです」

 あの先生は男女別なく昔からああいう芸風で辛口を売りにしてきたが時代は変わった。顔の好き嫌いは誰にもあるし、思想信条や主張は人それぞれだが顔を貶めるだけ、なんて単なる悪口でしかない。ただ生まれて生きているだけなのに顔の悪口を日本中に拡散されるなんて通り魔に遭ったようなものだ。

「でもあの選手は偉大な人だし、人気もあるからみなさん声を上げますけど、僕みたいなその辺のキモいおっさんなんて誰もかばってくれません。それが現実です」

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