1968年のメキシコシティと1980年のモスクワで五輪代表となりながら、競技団体の不祥事や日本のボイコットで出場を辞退した幻のオリンピアンを父に持つのが石原奈央子(46)だ。1300年の歴史がある栃木県の古峯神社で神主を務める彼女は、敷地内にあるクレー射撃場で練習を重ね、父が叶えられなかった五輪の出場権を勝ち取った。
「去年、五輪が延期になり、二度あることは三度あると、笑えない話になってしまった。史上最も五輪にツイていない男の娘もツイていなかったとなるのかなと(笑)。神様に仕える仕事をしているからこそ、自分を信じる力は他の日本人選手よりもある。それが強みと言えるかもしれない」
カヌー・スラローム(男子カヤックシングル)の代表・足立和也(30、ヤマネ鉄工建設所属)は、海外のレースに近い練習環境を求めて市場大樹コーチの住む山口県に移り住み、2015年頃までコーチと家賃7000円の山奥の阿武川沿いに建つ長屋で共同生活を送っていた。
「節約生活」はそれだけではない。足立は食堂のアルバイトで海外遠征資金を捻出してきた。
「参加する大会の出店で売っている2~3ユーロのホットドッグに手が出ず、1ユーロのパスタとジャガイモを買い、1000円の宿を探してそこで料理して食べていた時期もあります。東京五輪のコースは波が複雑に交差していて、テクニックが求められる。自分に合っていると思いたいですね。東京五輪を機に、カヌーをメジャー競技にしたい」
ハングリーさでは誰にも負けない。それが二足のわらじを履くマイナー競技の無名選手に共通する強みだ。
取材・文/柳川悠二
※週刊ポスト2021年7月2日号