ライフ

小説家・吉川トリコが語る『トラとミケ』 コロナ禍の困難さと救い

第34話「寒夜の候」より、トラとミケ姉妹の会話が切ない

第34話「寒夜の候」より、トラとミケ姉妹の会話が切ない

『女性セブン』に連載中の『トラとミケ』の第3巻&LINEスタンプが発売された。今夏にはアニメ化され、Twitterで配信予定だという同作を、小説家の吉川トリコさんが語る。

 * * *
『トラとミケ』には、のんびりした時間が流れる街の様子や、人々の触れ合いが描かれています。ただ、1巻、2巻を読んでから、3巻を読むと、ほのぼのとした世界の中に、人の死、病気、貧困、生きていくことの困難さがさりげなく入ってきていることに気がつきます。

 この3巻はちょうどコロナ禍に入ってから描かれたものですよね。いまは漫画家も小説家もコロナをどう描くか、すごくいろいろ考えていらっしゃると思うんです。その点、ねこまきさんは作中にコロナを持ち込まないぞって腹を決めたんだなと最初読んだときに思ったのですが、明らかに3巻の肌合いが違う。私の勝手な読み取りかもしれませんが、もしかしたら作者は、こういう形でコロナ後の厳しい社会を反映しようとしているのではないでしょうか。

 たとえば、第34話「寒夜の候」でトラが熱を出して寝込むシーン。《実はあんたに内緒で少しお金を貯めてあってなぁ。私に万が一の事があったらそれをあんたの老後の足しにしなさいよ》なんて生々しい発言が急に出てきてドキッとしました。この2人にも確実に死は近づいてきているし、お金の問題もある。戦争中の回想シーンでは死が描かれ、新たに登場した女性はDV夫から逃げてきたシングルマザー。前巻の描写では、古き良き日本が描かれていたのに、このギャップ。でも、何となくいまの社会とリンクする……。

 もちろん、作品の中には救いがあります。仮にトラかミケのどちらかが先に旅立ち、ひとり取り残されたとしても、ああやって街に頼れる人たちがいっぱいいれば、生きていけますよね。

 脱サラした小説家志望の青年も、小説家の私からすると「賞を獲っても、仕事は辞めちゃダメ!」とハラハラしましたが、大丈夫。彼には、支えてくれる地域社会が下地にある。だからこそ、あの青年は脱サラできたのでしょう。理想の社会がここにはあるんですね。

 本書には、名古屋在住の私が「このお店はあそこをモデルにしているんだろうな」と思わせる舞台がいくつも登場します。その1つが「喫茶白樺」。作中では、かつての人気メニュー『白樺サンド』を、高齢の女主人に代わって、若めの女性が復活させていましたね。

 こうした食文化は、伝えていかないといつか消えていくはかなさがあります。でも本書では、世代を超えて連綿と続いていく。感動しました。今後は幼い子供にも何かしらが受け継がれていくのでしょうね。

【プロフィール】
吉川トリコ(よしかわ・とりこ)/1977年生まれ、名古屋在住。2004年「ねむりひめ」で「女による女のためのR-18文学賞」第3回大賞および読者賞を受賞しデビュー。著書に『マリー・アントワネットの日記』『余命一年、男をかう』など。

※女性セブン2021年7月22日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
【独占直撃】元フジテレビアナAさんが中居正広氏側の“反論”に胸中告白「これまで聞いていた内容と違うので困惑しています…」
NEWSポストセブン
不倫報道の渦中、2人は
《憔悴の永野芽郁と夜の日比谷でニアミス》不倫騒動の田中圭が舞台終了後に直行した意外な帰宅先は
NEWSポストセブン
富山県アパートで「メンズエステ」と称し、客に性的なサービスを提供したとして、富山大学の准教授・滝谷弘容疑者(49)らが逮捕(HPより)
《現役女子大生も在籍か》富山大・准教授が逮捕 月1000万円売り上げる“裏オプあり”の違法メンエス 18歳セラピストも…〈95%以上が地元の女性〉が売り
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(Instagramより)
〈シ◯ブ中なわけねいだろwww〉レースクイーンにグラビア…レーサム元会長と覚醒剤で逮捕された美女共犯者・奥本美穂容疑者(32)の“輝かしい経歴”と“スピリチュアルなSNS”
NEWSポストセブン
永野芽郁のCMについに“降板ドミノ”
《永野芽郁はゲッソリ》ついに始まった“CM降板ドミノ” ラジオ収録はスタッフが“厳戒態勢”も、懸念される「本人の憔悴」【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
日本人メジャーリーガーの扉を開けた村上雅則氏(時事通信フォト)
《通訳なしで渡米》大谷翔平が活躍する土台を作った“日本人初メジャーリーガー”が明かす「60年前のMLB」
NEWSポストセブン
スタッフの対応に批判が殺到する事態に(Xより)
《“シュシュ女”ネット上の誹謗中傷は名誉毀損に》K-POPフェスで韓流ファンの怒りをかった女性スタッフに同情の声…運営会社は「勤務態度に不適切な点があった」
NEWSポストセブン
現行犯逮捕された戸田容疑者と、血痕が残っていた犯行直後の現場(時事通信社/読者提供)
《動機は教育虐待》「3階建ての立派な豪邸にアパート経営も…」戸田佳孝容疑者(43)の“裕福な家庭環境”【東大前駅・無差別切りつけ】
NEWSポストセブン
未成年の少女を誘拐したうえ、わいせつな行為に及んだとして、無職・高橋光夢容疑者(22)らが逮捕(知人提供/時事通信フォト)
《10代前半少女に不同意わいせつ》「薬漬けで吐血して…」「女装してパキッてた」“トー横のパンダ”高橋光夢容疑者(22)の“危ない素顔”
NEWSポストセブン
“激太り”していた水原一平被告(AFLO/backgrid)
《またしても出頭延期》水原一平被告、気になる“妻の居場所”  昨年8月には“まさかのツーショット”も…「子どもを持ち、小さな式を挙げたい」吐露していた思い
NEWSポストセブン
露出を増やしつつある沢尻エリカ(時事通信フォト)
《過激な作品において魅力的な存在》沢尻エリカ、“半裸写真”公開で見えた映像作品復帰への道筋
週刊ポスト
憔悴した様子の永野芽郁
《憔悴の近影》永野芽郁、頬がこけ、目元を腫らして…移動時には“厳戒態勢”「事務所車までダッシュ」【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン