「それは、亡くなったマネージャーが『な、お前一人の力じゃなく、俺もけっこう貢献していただろ』と草葉の陰から僕に知らしめているのかなと思います。
二人三脚でやってきたマネージャーが亡くなって十年、話せる相手もなく暗中模索していますから。
でも、もちろんその間にいろいろなことを勉強しています。
我が家の本棚に、ギッシリと読んでない本が積み上げられています。ドストエフスキーやトルストイをコロナ禍でほとんど読みました。西洋美術やクラシックを嗜んだりもしています。
そうすると、やはりロシアという地に惹かれます。広大な自然の恵みで育まれるものには、何か大きなエネルギーを感じるんです。
僕も東北の人間なので分かるのですが、人間の生活は気候に左右される。自然の力には抗えない。人間も自然の一部だ──。そんなことを当たり前のように北国の人間は思っているわけです。だから共感できるのかもしれません。
そんなことを考えながら、次の代表作を構想すべく、資料を読みふける毎日です」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2021年7月16・23日号