息ぴったりの2人
「仕事という感覚はあまりないんです。思いついたら喋っていますね」と語る上田さん。取材中も笑いが絶えないなんとも2人らしいエピソードだが、喋り続ける夫に嫌気がさすことはないのだろうか。失礼を承知で聞いてみた。
ふくだ「あはは。この映画に関しては、自分の監督作なのでさすがに『もう嫌だ』みたいなことにはならないですけれど、でも上田の監督作で私がスタッフとして入っている時なんかは、『ちょっと今じゃないじゃん?』と思ったりすることはありますね(笑い)」
2020年の初めから映画化に向けて動き出していた本作。元々は原作通りに、忠実に映画化する予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大状況を受けて脚本を大幅に書き直したのだそう。
上田「当初は原作通り、95%がワニと過ごす『100日』で、最後の5分だけ後日談がつくという形で初稿をあげました。ちょうどそのタイミングで本格的なコロナ禍に入り、世界が一変した。世の中が暗いムードに包まれるなか、ぼくが今この映画をやる意味として、『その先の物語を描かないといけないな』と思うようになったんです。それで後半部分を大幅に膨らませることにしました。半分がオリジナルストーリーになったので、タイトルも改めて『100日間生きたワニ』としたんです」
オリジナルパートを膨らませるにあたっては、2つの思いがあったという。
上田「ぼくにとってのチャレンジだなという思いと、だからこそそのままの脚本ではいけないだろうな、という思いの2つがありました。ぼくはチャレンジがないものは映画じゃないと思っているから。原作を読んでいた人は、すでに100日間に何が起こるか分かっているじゃないですか。原作を読んでいる方に、さらにその先を、新しいものをお届けしたいなと思ったんです」
まさにその後半部分は、原作を読んでいても想像できない、驚きに満ちた展開になっている。
上田「ネタバレしたからと言って、何かが目減りするような映画ではないと思いますが、知らずに観た方が驚きはあると思います」
ふくだ「そうですね。劇場で初めてご覧になるほうが、登場人物たちと同じように感じられる部分が多いのかなと思います」
上田・ふくだ両監督の語る“チャレンジ”を、ぜひ劇場で目撃してほしい。
【プロフィール】
上田慎一郎(うえだ・しんいちろう)/1984年生まれ。滋賀県出身。中学時代に自主映画の制作をスタート。2009年に映画制作団体PANPOKOPINAを結成し、2015年にオムニバス映画『4/猫』の1編『猫まんま』の監督で商業デビュー。劇場長編デビュー作『カメラを止めるな!』(2018年)が、口コミを中心に爆発的な評判を呼び、当初2館の公開スタートから最終的に動員数220万人を突破。社会現象とも言える大ヒットとなった。
ふくだみゆき/1987年生まれ。群馬県出身。2013年に初の監督作となる短編実写映画『マシュマロ×ぺいん』を制作、国内で複数の映画賞を受賞。2015年制作のアニメーション映画『こんぷれっくす×コンプレックス』は、毎日映画コンクールアニメーション賞を受賞。歴史ある同コンクールで、自主制作アニメーション作品として初の受賞を果たし注目を集める。
◆取材・文/阿部洋子