移動の制限が徹底されなくても、専用車両などが登場するかもしれないともいわれている。
「ワクチン接種者と未接種者を長時間混在させないために、『パスポート所有者専用車両』もしくは『非パスポート所有者車両』ができる可能性はあります。後者の場合、それによって感染リスクが一気に急増するのです。しかし、それも“ワクチンを接種しない人の選択”として片付けられてしまうでしょう」(前出・国交省関係者)
交通機関以外で、入場に制限が加えられる可能性がもっとも高い場所は、デパ地下だ。
「地下は自然換気が期待できないため、どうしても機械換気に頼ることになる。省エネや省コストによる節約、機器の老朽化などにより、換気の流入量より排出量が下がってしまうと、機械換気によってかえってウイルスを拡散し、蔓延させるリスクがあります。不充分な換気は、たとえば病院クラスターの原因にもなってきたので要注意です」(前出・一石さん)
実際、今回の緊急事態宣言下では、大型商業施設での感染が拡大。政府の分科会は8月12日、デパートの地下食品売り場やショッピングモールなどの人出を「強力に抑える」よう政府に提言した。ワクチンパスポートの提示義務が始まれば、持っていない人は真っ先に“出入禁止”になりそうだ。
「ワクチンパスポートを持っていない人たちは、商業施設や娯楽施設での居場所を失い、《パスポート不問》を掲げる店や施設に集まることになるでしょう。しかし、そこは“闇営業”の店。国民から厳しい視線が向けられるのは必至です」(医療ジャーナリスト)
臨終の立ち会いができない
日に日に増える感染者の影響で、病院ではコロナ以外の救急患者も受け入れが難しくなっている。いわゆる救急崩壊の問題だ。
「同じ救急患者でも、ワクチンパスポートがあれば病院側は安心して受け入れることができますが、パスポートがない人は、病院側が拒否してたらい回しにされる可能性があります。救急外来じゃなくても、今後、コロナ患者に対応できない個人病院では、『パスポートのない人は診察できません』とするところが増えることが予想されます」(前出・医療ジャーナリスト)
コロナ禍では家族が臨終に立ち会えなかったり、知人の葬儀に参列できないケースも多く聞いた。
「志村けんさんが亡くなったとき、実兄がご遺体と対面することすら許されませんでした。岡江久美子さんが亡くなった際、夫の大和田獏さんは感染予防の観点から火葬場で最後のお別れを言えませんでした。しかし、ワクチンパスポートが導入されれば、これまで通りの葬儀が可能になるかもしれません。一方、パスポートのない人は、最後のお別れができない可能性があります」(前出・医療ジャーナリスト)
さらにワクチンパスポートの有無は、その人の“将来”をも大きく左右しかねない。
「例えば、アメリカ国防総省や軍ではワクチン接種が義務化され、一部の大企業ではワクチンを打っていることが採用の前提になっています。日本でも、就職や転職の際にワクチンパスポートを求められることが想定されます」(医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さん)
アメリカではワクチンパスポートの偽造が発生。カリフォルニア州ではワクチンカードを1枚20ドルで販売したバーの店主が刑事告発される事例も発生している。ここまでくると、日本国内でも、前述したようなパスポート偽造問題が相次ぐかもしれない。しかし、こうした問題点を抱えつつも、ワクチンパスポートの導入は進みそうだ。その理由を上さんはこう語る。
「コロナで重症化する人がたくさん出れば、国の医療費負担が増え、企業や健康保険組合の保険料負担も増える。実際のところ、カネ(医療費)を払いたくないという動機で、国や企業がワクチンパスポートの義務化を強烈に推し進める可能性が高いのです」
さらに前出の一石さんはワクチンパスポート導入後の過信を警戒する。
「デルタ株の影響などで、イスラエルやアメリカなどでもワクチン接種後の感染者が増えています。いわゆる『ブレークスルー感染(突破感染)』ですが、ワクチンパスポートは決して万能ではありません。これまでのような感染対策は変わらず行う必要があると思います」
パスポートは決して「感染しない」ことの証明にはならない。提示義務の導入に際しては、こうした事実をしっかりと踏まえた議論が必要だ。
※女性セブン2021年9月2日号