「ぶんすかする」から「笑壺に入る」まで
辞典には全部で1093語を収録。第一部が「感情のことば」、第二部が「行動のことば」「体のことば」を中心に編まれている。
「喜ぶ」は、「有頂天」「歓喜する」など見開き2ページに収まっているのに、「怒る」のほうは、感情の「小」「中」「大」の程度にあわせて「かちんと来る」「立腹する」「青筋を立てる」など、さまざまなヴァリエーションが収録されているのが興味深い。
飯間さんが執筆した本書の中のコラムにもあるように、プラスの気持ちを表す言葉が「うれしい」「楽しい」「面白い」ぐらいなのに、マイナスの気持ちは「悲しい」「寂しい」「苦しい」「辛い」「煩わしい」「怖い」「恐ろしい」「憎らしい」「悔しい」などなど、数多くある。「人は、満足しているときよりも、不満や不安があるときのほうが、気持ちを細かく表現したくなる」と聞くと、納得がいく。
公正で客観的な辞典の例文に、つくり手の個性や感情が、ふと顔をのぞかせるのも、読んでいて面白いところだ。
たとえば「腸(はらわた)が煮え返る」(=どうにも我慢ができないほど激しい怒りを覚えるという意味)の例文、「失敗をみなこちらのせいにされ、はらわたが煮え返る思いだ」という文章は具体的で、書き手が経験したことかなと、つい想像してしまう。
50代の男性である飯間さん自身の視点だけでなく、結婚したばかりの若い女性や、あるいは就職活動中の大学生にもそれぞれ、みごとに「憑依して」、役に立ちそうな例文を一つひとつ考えていった。
言葉の選定は、編集部が選んでExcelにまとめたリストをもとに、リモート会議で進めていったそうだ。
「ぷんすかする」「きゅんきゅん」といった若者言葉だけでなく、「蔗境(=しゃきょう、しだいに面白くなること)」「ぴかしゃか(言動に、嫌みで気取った感じがある様子)」「笑壺(えつぼ)に入る(思い通りになったり、得意になったりして思わず笑みを浮かべる)」といった、古い時代の感情を表す言葉や、あまり使わない硬い言葉からもいくつか選ばれていて、折を見て使ってみたくなる。